V 「そういうことか」 「ん?」 「いいや、お前はカサネの秘密にしておきたい秘密を暴いたんだな?」 「……お兄さんは知っていたのか? そこの策士は魔族の血が混ざっていることに」 流石にこの場で薔薇魔導師様とは呼べる状況ではなかった。 「っ――!」 カサネが息を呑むのがわかる。即座に理解した。カサネはシェーリオルに真実を告げていないことを。しかし、シェーリオルはいたって平静。恐らくは元々気が付いていた。その上で黙認し続けてきた。 「だから?」 あっさりとしたシェーリオルの一言。カサネは霞む視界の中で、首を動かしシェーリオルを見る。 「シオル……。最後まで確信を言わせないようにしてきましたが、やっぱ気が付いていましたか」 「あたり前だろ、わかっていて――共犯者で居続けたんだからな」 魔導に精通しているシェーリオルが、気がつかないはずはなかった。けど、カサネが例え何であれシェーリオルにとって構わなかった。 「俺は、例えカサネが先に攻撃を仕掛けたとしても、だ。顔見知り程度の眼帯少年と、カサネなら簡単にカサネの味方をするが――?」 宣戦布告。傷つけられた共犯者を守るため。 「まぁ、そうっすよね……」 「あぁ、だが。お前がそのまま退散するのなら俺は何も見なかったことにする」 「……そういうこと。じゃあ俺は退散する」 ラディカルはナイフを仕舞い、背を向けその場を後にする。歩きながら外した眼帯を嵌め、人族へと偽装する。シェーリオルがラディカルと争う道を選ばなかったのは簡単だ、カサネの手当てをするため。ラディカルもその意図を明確に理解し、その場を立ち去った。ラディカルとてカサネの命を奪うつもりはなかったのだから。 カサネは普通の治癒術師に治癒されることを嫌っている。策士として周りに弱みを見せない為か、他人を信頼していないカサネが、見ず知らずの治癒術師に身を預けるのが嫌なのかは定かではないが。 「待っていろ、俺の治癒術で何処まで治療出来るかわからないが、応急処置程度ならできるはずだ」 「全く、心配性だな。シオルは」 カサネの口調が素に戻る。呼吸は荒い。シェーリオルは予備の魔石として新たに所持している魔石を複数左手に握り、右手をカサネの傷口付近にかざす。魔石は輝き、カサネを癒す光となる。 「そりゃあな。お前に死なれたくないし」 「それにしても……本当に気が付いていたんだな」 何を、とは問わない。 「けど、なら何故?」 「はぁ? カサネはカサネだからに決まっているだろ。別に魔族の血を引いているかどうかなんて関係ないし、興味もない。……お前も、俺が仮に魔族の血を引いているってわかっても態度変えない……だろ?」 「そりゃあそうだけど。血なんて関係ない。シオルはシオルだ」 「俺も同じってことだ」 ただ、それだけ。血も生まれも何も関係ない。出会ったのだから。 「そっか。けど……エレテリカには何も言わないでくれ」 切実なお願い。エレテリカには何も知らないでいてほしい。何も知らないままで過ごしてほしかった。 [*前] | [次#] TOP |