零の旋律 | ナノ

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 ラディカルはカサネのナイフより大分大ぶりのナイフを取り出す。金属と金属がぶつかりあう音が響く。

「いっとくけど、俺は簡単に殺されるつもりはないぜ?」
「そう――ですかっ!」

 後方に下がってから、勢いをつけてカサネは向かう。
 だが、その時突然ラディカルのナイフに炎が宿り、それがそのままブーメランのように投げられる。
 カサネは咄嗟の事で交わすことが叶わず、肩をナイフが回転しながら抉る。

「ぐっ……」

 肩を通って、後方から二撃目を加えようとする。カサネは咄嗟にその場から離れ回避する。
 炎を纏ったナイフは、斬撃に加え、ひりひりと焼けるように熱い。

「あのさ、お兄さん。俺を舐めすぎ。俺が魔族の血を引いていると気がついたのなら、当然魔法にも注意しなきゃっしょ?」

 ラディカルは眼帯を捲る。闇夜に輝く金の瞳がそこにはあった。水面に映る月のように神秘さを瞳ははらんでいる。

「わかっていますよ! それくらい」

 痛みなど関係ないとカサネは動く。鎖付きナイフを利用して、ラディカルに向けて投擲するも弾かれる。ナイフが飛ばされないように、鎖を強く引っ張り手元に戻す。

「ちぃ……っあ!?」

 手元に戻した瞬間、ラディカルが眼前まで迫って来ていた。

「くっ」

 咄嗟にナイフで攻撃をするものの、そのナイフはラディカルの右手に止められる。右手からは血が流れるが、ラディカルは気にしない。
 むしろ、カサネにはラディカルの不敵な笑みが脳裏にこびりつく。
 ラディカルはそのままの体勢で左手に握っているナイフで腹部を切り裂く。
 その衝撃と痛みで、カサネはナイフの鎖を手放す。ラディカルはカサネを突き放すように、蹴る。
 カサネはそのまま、石垣に背中から激突する。痛みで唸る。肩で息をする。呼吸が荒い。

「あのさ、お兄さん。舐めすぎ」

 先刻と同じ言葉を繰り返す。ラディカルが刃を握り直した時――嫌な予感、殆ど直感的にその場を離れる。すると、地面には無数の刃が突き刺さる。光を纏ったそれは、対象に当たらなかったことで、粒子となり消えゆく。パリンと何かが割れた音がする。

「そこの眼帯少年。悪いけど――うちの策士様に何をしているんだ?」

 カサネの窮地を救ったのは、第二王位継承者シェーリオル・エリト・デルフェニ。
 カサネの状態を見るため、カサネに近づく。

「(流石にこの怪我じゃあ……俺の腕じゃ時間がかかる)で、眼帯少年。何を?」

 鋭い眼光。カサネとはまた別の冷たさ。

「先に言っとくけど、俺に戦意はなかったよ。最初に俺を殺そうとしたのはそこの策士様なんだから」
「……だろうな」
「まぁ、策士様の琴線に触れたのは俺だろうけど」
「……それにしても眼帯少年は半魔族だったんだな」

 眼帯少年と呼んでいるが、決して今、ラディカルは眼帯をしているわけではない。ラディカルにとって、予想外の登場人物に半魔族だと知られた。けど、不思議と焦りはなかった。相手は王族の人族だというのに。


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