零の旋律 | ナノ

策士と魔導師(続:策士策略)


+++
 太陽が沈み、月の光が辺りを照らす。
 満月の星空が、外灯をつけなくとも人が認識出来る明るさをもつ。カサネ・アザレアはようやっと休息がつけそうだ、と人気のない場所に移動する。
 アークには依頼完了として、依頼料は後日屋敷に送ることを伝えたから、今ごろは船の中だろうと推測する。人気の無い場所で、一人深呼吸をする。静かな空間は落ち着く。
 その時、がさっと砂が踏まれる音がする。誰かがいる、カサネは視線を鋭くし、音のした方を伺う。
 その視線の先から赤毛の少年が現れる。その少年は眼帯をしていた。ラディカルだ。

「何用ですか?」

 袖口から何時でも武器が取り出せるようにしながら、カサネは問う。

「質問いいか?」
「何ですか?」
「“お兄さん”さいくつ?」
「……貴方に答える義務も必要性もありません」

 質問に対して、拒絶する。それ以上触れるなと。しかし、ラディカルは止めない。どうしても確かめたいことがあったからだ。だからカサネが一人になるのを待っていた。この機会を逃すわけにはいかない。

「いくらなんでもさ、おかしいだろ」
「……何がですか?」
「身近にいる人ってのは、案外気がつかないもんだよな。身近にいるからこそ、その変化に気が付きにくい。同じであるのに、同じでないと見てしまう」
「何が言いたいのです?」
「あの王子様から、あんたと出会った当初の想い出の写真を見せて貰ったんだ」

 心音が鳴る。これ以上言わせるな。言わせろ。二つの警鐘が交互になる。月明かりの影となり、カサネの表情は伺えない。

「六年以上の歳月の中で、あんた驚くほど姿が変っていない。童顔でもそれはあり得ないってもんだろ?」
「……」
「一般的に、知られていない事実がある」
「……」
「それは、魔族が人族より遥かに寿命が長いことだ。平均して三倍。魔族によってはもっと長生きする。成長過程が遅いんだよな」
「何がいいたいのです」
「あんた、魔族じゃないのか?」
「……魔族なら、金の瞳のはずですが」

 言葉にはやけに抑揚がない。

「あぁ、そうさ。けど。純粋な魔族じゃない可能性はあるだろ?」
「……あぁ、もういいですよ」

 邪魔になるなら――殺すだけ。
 これ以上会話をするだけ無駄、意味のないことだとカサネは判断する。否、それ以上言ってほしくはなかった。

「何がだ?」

 袖口からナイフを取り出す。

「それ以上の無駄口を叩くなら殺します」

 ――王子に害なす可能性があるなら全て、殺す。例えそれが私なら私をも。
 ――周りが敵だったあの頃、たった一人手を指し伸ばしてくれた貴方の為に。

「否定は肯定。武力も肯定。殺害も肯定だ」
「……」
「俺にナイフを向けた時点であんたは魔族だ」

 断言。

「……つまり、貴方も魔族ですね。異様に詳しいのはあなた自身がみを持って感じているからでしょ?」

 ラディカルは不敵に微笑む。それがカサネには忌々しかった。

「私の秘密を知る以上、生かしておく必要はありませんよね?」

 疑問でありながらそれは決定事項。カサネは両手に鎖付きナイフを持ちながらラディカルに向かう。


- 107 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -