零の旋律 | ナノ

]Z


 華麗に振るうレイピアが鎧の隙間を通って血が滴る。発砲音とともに兵士は倒れる。致命傷を狙った銃弾は寸分違わず急所を貫く。色のついた魔導が飛び交う。肉を切り裂き血しぶきに濡れる。悲鳴が次第に止んでいく。事態は収束に近づいていった頃合い、ホクシアと青年はこれ以上この場に留まり標的を自分たちに移動する前に、姿を眩ました。誰も気に留めない。策士カサネ・アザレアさえ気に留めることはしなかった。魔族という明確の敵より、この場に現れた兵士に注意がよっていたからだ。

 事態が収束したのち、カサネはリヴェルア王国国軍に後片付けの指示を出している。
 シェーリオルの隣にはシェーリオルとの戦いを望んでいるアークが突っ立っている。

「そういや、あの時」
「あの時?」
「あの銃――」
「あぁ、馬鹿主こんなところにいましたか。シェーリオル・エリト・デルフェニに隠れて霞み程度の存在で中々見つけることが出来ませんでしたよ」

 シェーリオルが問おうとした時、タイミングが悪いのかいいのか、ヒースリアが優美な足取りでやってくる。

「お前、何処にいっていたんだよ」
「私ですか? 私が何処にいて何をしようが私の勝手ではありませんが。主に逐一報告する義務はありません」
「そりゃそうだけど」
「それとも、主はそんなにも私が何をしていたのか知りたいのですか? 気色悪いですね」
「こっちだって御免だ! 気色悪い」
「まぁ、親切心で教えて差し上げるのならば、私は最初にいた場所で優雅に紅茶を飲みたいなぁと思いながら眺めていました。終わったと思ったので出てきました」

 さらりと悪びれた様子もなく告げるヒースリアにアークはため息しか出ない。

「ほんと、お前の所の執事はユニークだな」

 シェーリオルは苦笑いをしていた。ヒースリアは何を思ったのかアークを退かし、シェーリオルの隣に並ぶ。

「何してんだ……?」

 突飛な行動に、アークは眉を顰める。

「いえ、主に自分の醜さを自覚して頂こうと」
「どんな目的だ!?」
「主を視力から虐めて差し上げる会です」
「その会って俺も含まれているのか?」
「えぇ、当然です。シェーリオル・エリト・デルフェニ」
「リーシェでいいって」
「では、リーシェ」

 自然な会話をする二人に、アークは怒る気力にもなれなかった。確かに二人並ぶと、一人ですら目立つ容姿なのに、それが際立つなと思う。

 エレテリカはその頃、ラディカルと共にいた。

「ラディーもこの場にいたんだね」
「そうっすよ。この時期に王都にいることって滅多にないから、どんなもんかと思って――まぁ、結果はこんなんだけどな」
「まぁ仕方ないかな。祭典は中止になるか延期するかはまだわからないことだけど。ん? ラディー手を怪我しているね。今、治癒術師を手配してくるよ」
「有難う。でも、ついて行ってその場で治して貰うさ」
「じゃあ、一緒に」

 ラディカルとエレテリカは怪我人を治療するために予めカサネが手配していた治癒術師たちの元へ向かう。
 ラディカルの怪我は深刻なものではなかったため、治癒術ですぐに完治した。治癒術を受けている間、ラディカルは改めて、アークの知り合いである治癒術師ハイリの実力の高さを再認識する。
 恐らく、治癒術師ハイリはこの場にいる治癒術師の誰よりも優れているのだろう。
 ラディカルは片目で、この場の指揮をとっているカサネ・アザレアを見る。


- 106 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -