零の旋律 | ナノ

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 無数の帝国兵士にエレテリカとシェーリオルは取り囲まれる。いくら二人が強くとも多勢に無勢であった。

「悪い、エレ」

 シェーリオルはエレテリカに謝る。使わないで済むのならエレテリカの魔石を使いたくなかった。しかし、この場を打開するには、魔導を扱うのが最も合理的で確実だと判断した。
 魔導によって、薄い桜色に魔石は発光し、幻想的な花弁が周辺に舞う。花弁がゆらりゆらりと舞うのを視界に入れた兵士は次から次へと倒れていく。まるで、眠りについたように。
 花弁は、舞うだではなく、薄い桜色の霧を周囲に巻いていた。
 エレテリカとシェーリオルを取り囲んでいた兵士が一人のらず倒れたのを確認すると、それらは雪のような発光と共に、消えていく。それと同時にエレテリカの魔石にひびが入る。シェーリオルが敵と認識した相手のみを眠りにつかせる魔導だ。
 シェーリオルは立て続けに――光の剣を具現させ、人々に襲いかかろうとしている魔物に向けて解き放つ。魔石は砕けちり、砂状になりながら跡形なく消え去った。

「いいよ。俺が使うよりリーシェ兄さんが使った方が効率的でしょ」
「悪いな(……エレの、魔石でも二回しかもたなかったか)」

 元々、シェーリオルは通常の魔石を用いれば魔石が魔導の力に耐えきれず、砕け散ってしまう力を持っていた。だが、今までシェーリオルが髪留めとして使用していた赤い魔石だけは別だった。何度使用しようと、砕けちることはなかった。赤い魔石には何か、他の魔石とは違う特別な力があるとシェーリオルは分析していた。しかし、唯一砕けることがなかった魔石を手放した今、無暗に魔導を扱う事も叶わない。
 そうなることがわかっていて、シェーリオルはホクシアに魔石を返した。ホクシアの魔石を求める瞳が真剣そのものであり、また魔石が魔族の血によって作られている事実を知っているから。
 王子を狙っていた兵士は片付けた。残りの兵士たちを片付けようとシェーリオルは再びレイピアを握る。魔石はもうない。魔導で対応することはできない。しかし、焦りは一切なかった。エレテリカが隣にいるから、始末屋がいるから――何より策士への信頼がある。
 シェーリオルがレイピアを振るおうとしたその時

「――!?」

 気配を感じて振り返る。発砲音。シェーリオルに向けて発砲した兵士と目が合う。
 弾は真っ直ぐに向かって来る。気がつくのが遅かった、対応が間に合わない――しかし、銃弾はそこであらぬ方向に飛んだ。

「……な!?」

 銃痕を見れば、銃痕が二つあることに気がつく。
 その事実は非現実的であり、それと同時に何者かの実力の高さを認識する。何者かは、打ちぬかれた銃弾に対して、同様に銃を発砲して銃弾と銃弾同士をぶつけて無理矢理方向を変えるという並はずれた技術をやってのけたのだ。
 兵士は事実を認識する暇もなく――続けざまに打とうとするが、脳天を銃弾が貫き、そのまま絶命した。

「……アーク、レインドフか?」

 そのような芸当が出来る実力者は、シェーリオルの中でアークしか思い浮かばない。それにカサネはアークに対して拳銃を予め渡していた。始末屋として名高いアークなら出来て不思議ではないと判断する。

「リーシェ兄さん大丈夫!?」
「あぁ、問題ない」
「でも、今のは……?」
「恐らく、アークがやってくれたんだと思う」
「アーク?」
「カサネが雇っている護衛人だ」

 本当は始末屋だが、その部分をシェーリオルは意図的に隠す。
 何故なら、その事実をエレテリカが知る必要はないと思っているからだ。ましてやエレテリカがアークを知らないのならば、自分が話すべきではないと判断して。
 カサネはエレテリカに裏の裏まで深く関わって欲しいと思っていない。カサネが自分で行っていることの半分はエレテリカに対して秘密裏にしている。エレテリカが知っているカサネの闇部分はほんの表層でしかない。エレテリカがそれに気が付いているか、いないかは別として。


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