零の旋律 | ナノ

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「例え、てめぇらの声がなんであれだ、俺はどちらの味方にもなれない」

 勢いがついて戻ってきたナイフを右手で受け止める。反動で少しばかり後ろに後退する。

「それに――少しばっかしすっきりしたんだよなぁ」

 半分魔族の血を引いていることを気にも留めなかった、アーク・レインドフ。その異色さがラディカルにとっては畏怖の対象であり、同時に――初めて、敵対心を抱かないで貰えた相手。

「よく、わからねぇけど」

 恐らく、全てを偽り続ける必要がないと、わかったから。
 世界中を探してもアークのような人種は稀だとわかっている。けれど、それでも魔族に対して敵対心を頂かない人族がいることが判明しただけで良かった。
 人族の全てが魔族を嫌っていないと実感できたから。最も、ラディカルとてわかっている。アーク・レインドフは人族も魔族も関係ない思考だということを。依頼があればどちらも殺すしどちらも殺さない。それだけのこと。だが、それでも――良かった。

「(そういや――)」

 魔物と対峙していると、ラディカルが魔族の血を引いていることを知らない魔族が、邪魔な対象と判断したのだろう。魔族がラディカルの元へやってきた。

「(あの時――)」

 ラディカルの脳裏に蘇る、あの時見た物。だが、首を振ってその幻影を消す。今は惑わされている場合ではない。

「ちぃ、俺は魔族と殺し合うつもりは到底ない!」

 ラディカルはナイフを構えながら、それでも敵意がないと告げる。しかし、ラディカルを人族だと思いこんでいる魔族がそれを受け入れるわけもない。鋭い斬撃が風と共に迸る。ラディカルは寸前の所で転がるように回避する。

「ったく。危ないじゃねぇか」

 魔族の――予め何の魔法が扱われるか、寸前で察知出来たラディカルだからこそ事前回避が出来た。ギリギリのところで。


 魔物の背に乗ったまま空中にいるホクシアと青年。

「ホクシア、どうする?」

 青年がホクシアに問う。撤退するか、このまま攻撃を続けるかどうするか、青年は判断をホクシアに任せていた。

「そうね……下手に仲間を犠牲にする必要もないし、私と貴方だけ残って他の仲間には離脱して貰うのが最適かしら」
「それが一番此方にとって被害が少なく、且つ好機にもなるか」
「えぇ。それにあの兵士ども――恐らくは帝国の兵士とリヴェルア王国が共食いしてくれればなおのこといいわ」
「だな。じゃあ、俺が仲間たちに伝えてくるよ」
「頼んだわ」

 青年は指で印をきるように動かし、風属性の魔法を発生させる。足元に発生した魔法で浮遊し、魔物の背から離れ戦っている仲間の元へ近づいていく。その足取りは、人族からの攻撃がある可能性を考えていないのではと思えるほど優美であった。
 青年が最初に向かったのは、ラディカルと戦っている魔族の元だった。

「一旦、撤退するぞ」

 青年はラディカルを一瞥する。そして――瞳に違和感を覚える。その瞳は、魔族に対して殺意も敵意もなかった。

「変った、奴だこと」

 独り言は、人々の刃が交える音、悲鳴によってかき消された。
 魔族は青年の言葉ならと、予め簡易移動魔法陣として形成してきた魔法を発動して、移動する。
 青年は他の魔族の元へ行き撤退の意思を告げる。そうして最後には多数の魔物とホクシア、青年だけになった。青年の命令に他の魔族が従う所見る限り、青年は魔族を従わせることができる立場の者なのだろう。


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