零の旋律 | ナノ

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「帝国がやってくる可能性は危惧していましたから。現状厄介なのは絶対数で劣る魔族より、帝国ですからね。リヴェルア王国程の領土を有していないとはいえ、人口面で言えばリヴェルア王国と同等か、勝る程なのですから。喉かで穏やかな地形が多いリヴェルアと違い、帝国の気候は温暖が激しい。そこで育った屈強な精神や体力は侮れません。ならば先手を打つに他ないでしょう?」

 無邪気に微笑むその裏で幾つもの策が実行されたか、アークの笑みが引き攣る。

「お前本当に十六かよ」
「私が何時、年齢をいいましたか? 違いますよ」
「俺が外見で勝手に判断していただけだが、じゃあ幾つだ?」
「秘密です。不用意に個人情報を漏洩しませんよ。ただ、二十代ですよ」
「はぁ!?」

 拳銃がそこで初めてぶれる。驚愕の為だ。
 その隙に兵士が槍を構えて襲いかかってくるが、刃を拳銃で押さえ、そのまま力技で押し切り、バランスを相手が崩した所で銃弾を放つ。

「眼帯君と同じで見た目詐欺かよ」
「眼帯君?」
「俺の知り合いさ。そいつも見た目十代なのに、俺より年上だったんだよ」
「そうなのですか……」

 何か思うところがあるのか、カサネの歯切れが少し悪い。
 カサネは魔導を一切扱わない。一切扱わない為、魔石も所持していない。弾切れを起こせば、カサネはリロードをする。その際に隙が生じるが、その辺は最初から計算済み。アークがその隙に襲ってきた相手を片っ端から攻撃していく。
 共闘するのは初めてだが、初めてとは思えない巧みな連携プレーだった。状況をアークが的確に判断し攻撃し、攻撃の隙があればカサネも加わる。

 ラディカルはその様子を遠巻きに傍観していたが、魔族、リヴェルア王国国軍、それだけではない、見知らぬ兵士――恐らくは帝国の兵士だろうと推測をつけていた――彼らが混沌と参戦していれば、そのまま放置するわけにもいかなかった。
 人族の味方ではない。人族は自分が半魔族だと知れば容易に掌を返すのだから。何度も経験して来た。
 だからこそ、力づくで海賊の船長になることを夢見た。けれど、人族を見捨てておける程、冷酷にラディカルはなることが出来ない。白昼夢のような出来事が想いでとして残っている限り。
 逃げ惑う人々、襲いかかってくる魔物に、帝国の兵士。
 ――ちぃ!
 ラディカルは刃を抜き、襲われている人族を助ける。

「(例え、何も知らないことだったと、してもだ……)」

 ラディカルが刃を振るう度に、魔物は血を流し倒れていく。

「大丈夫か!? さっさと逃げろ!」

 相手の返答を待たずして叫ぶ。じりじりと魔物は迫ってくる。人を庇いながら戦うのは得意ではない。
 何時も一人で戦ってきたから。何時も一人だったから。心からの仲間なんていらない。裏切られるのが辛くなるだけ。
 常に一定の壁を作り、相手を接してきた。フレンドリーに振舞おうとも、壁の内側には相手を決していれなかった。
 誰しもがアーク・レインドフとは違う。魔族の血をひいていると知って、あのような反応は出来ない。わかりきっている。他の人にそれを期待するだけ無駄なのだ。

「エレ王子も強いなぁ……」

 余裕はないのに、ふと唯の青年だと思い会話していた人物に視線が移る。彼は王子だというのに、前線を切って戦っている。傍らにいるのは薔薇魔導師様とラディカルが呼ぶ相手シェーリオル。

「ととと」

 半歩下がったところで、鋭い刃がラディカルの腕を切り裂く。

「つっ――!」

 鋭い痛みが迸る。しかし、ラディカルは笑っていた。にやりと笑みを浮かべる。
 ――あぁ、痛い。痛みが鮮明だ。けど
 ――魔族だとばれた時の痛みに比べれば、ルキを庇った時の痛みに比べれば
 ――全く痛くなんてない!
 ラディカルは滴る血をもろともせずにナイフを投げつける。回転しながら対象を抉る。


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