零の旋律 | ナノ

]V


「あの金髪、確かシェーリオル・エリト・デルフェニか」

 青年は、シェーリオルの容姿に思い当たる節があったのか、名前を述べる。

「シェーリオル? 確か、第二王位継承者よね」
「そう。第二王位継承者にして魔導の天才さ。数々の功績を上げた魔導の研究者として有名な」
「けれど、合点がいかない。いくら魔導の天才だといっても、所詮は魔導。魔法を扱えるわけではないのに、魔石が限界を突破して砕ける現象が起こるなんて、信じられない」
「おおいに同感だ。普通あり得ない」
「何か裏があるのか、それだけの実力者なのかしら。それにしても、レイピアまで扱えるなんて、贅沢ね」

 ホクシアの率直な感想。以前、小枝すら武器にしてしまう、始末屋に比べればその実技は劣るが、それでも魔導を扱う魔導師でありながら、そのレイピアさばきには感心出来るものがあった。
 けれど、やはりシェーリオルの本来の強さは魔導を扱ってこそと、思わせる動きでも同時にある。

「まぁ……魔導が使えなくとも、何だろうとも、俺たちには関係がないだろう」
「そう……ね」

 シェーリオルが、未練なく返してくれた魔石を大切そうに胸元で抱きしめる。愛おしい。懐かしい感覚。

+++
 アークは小枝や小石を武器としている時以上の実力で銃を巧みに扱う。最も、小枝や小石がそもそも武器として作られていない――自然にあるものである以上、銃の方が圧倒的に威力が高いのは当然であろう。

「やはり、貴方は銃も問題なく扱えますね。下手な武器を選ぶより、そちらの方が効率的でしょう」

 カサネがアークの元へ近づき。耳打ちする。銃弾を全て出しつくすと、銀色の魔石が輝き、銃が装填される。

「詰まんないだろ――そんなんじゃ」
「全く持って呆れた戦闘狂です。無音の彼は?」
「あいつ? そういやいないな」
「まぁいいですけど、元々私のことを嫌っている彼が、私の為に何かをしてくれるとは思ってもいませんし」
「そりゃそうだ、あいつが何かしてくれたらそれこそ天変地異のまいぶれだろう」
「そこまでの威力はもっていないとは思いますが……」

 せいぜい、槍が降ってくるくらいです、カサネはそう付け加える。

「さて、質問だ。お前はこの状況を予知していたのか?」

 銃弾が乱れる。狙いを定めていないような乱雑な打ち方。けれど――狙いは寸分狂うことなく目標に的中する。

「えぇ。しかし詳細を入手することは難しかったので、多めに手を打っておきました。どんなことが起きても対処できるように」
「成程な。で、あいつらは何者だ?」
「此処に魔族といて他にリヴェルアに大勢で敵対してくるような輩といえば推測が容易につくでしょう? それくらいの頭脳はありますよね?」
「……やっぱ帝国の兵士か」
「えぇ、そうです。推測は着いていたでしょう? 帝国は国の風土が違いますからね」
「あぁ」

 この世界には、三つの国がある。リヴェルア王国、アルベルズ王国そして――イ・ラルト帝国だ。
 帝国がリヴェルア王国に対して宣戦布告してくる、その可能性が高いことをカサネは情報として掴んでいた。けれど、帝国の情報をリヴェルア王国にいるカサネが詳細に手に入れることは叶わなかった。様々な手を使い尽くせばそれも不可能ではないが、そこまでの労力と時間をかけることをカサネは嫌った。
 だからこそ、事前に手を打ち迎え撃つことを決めていた。
 万が一何も起こらなくても、それはそれで起こらないに越したことはないのだから。念には念を入れて。
 幾つもの策が複雑に絡み合い、カサネの中で一本の糸を形成し、糸に囚われた相手をカサネは決して逃さない。


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