零の旋律 | ナノ

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 アークが地面に着地したと同時に、魔族ではない武装した兵士たちを一斉に取り囲むように、突如としてリヴェルア王国国軍が現れる。眩い魔石の輝き――魔導と共に。

「予め、地面に魔石を仕込み、それに寄り展開した移動魔導か……?」

 一般人に比べ魔導の知識が豊富なアークは、その現状を冷静に判断する。

「――なっ!?」

 一方、予想外の展開に兵士たちの間に混乱が生まれる。魔石によって発動する移動魔導は予め、術式を刻んでおかなければ発動が不可能。それが示している事は明快で、最初から――予期されていたことに他ならない。

「こそこそ、とリヴェルアを嗅ぎまわっていた輩は一斉に捉えなければなりませんからね」

 靴音を立てながら、リヴェルア王国国軍の中心に、軍人には思えない幼さを醸した十代中頃の少年――策士カサネ・アザレアが姿を現す。護身用だろうか、右手には拳銃を握っている。余裕綽々の笑みを浮かべながら、得体のしれない兵士たちへ近づく。

「魔族が此処に来る可能性も、高いとは思っていましたが、敵が明快な魔族よりも先に始末するものがありますからね」

 兵士はカサネ・アザレアに向けて銃弾を放つ。それは咄嗟の事で判断としては間違っていない。国軍を現状で指揮しているのは間違いなく策士なのだから。
 カサネ・アザレアが長けているのは策を練ることであり、戦闘ではない。アーク・レインドフの用な身体能力は持ち合わせていない。しかし、相手が最初から自分に向けて銃弾を放つとわかっていれば――且つ、一定以上の距離があることが前提条件にあれば、カサネにもギリギリで交わすことが出来た。軽く首を傾げる。髪の毛を銃弾が掠めていく。

「最初から、何処にどう来るのか、わかっていればその程度は対処、出来ますよ」

 以前、カサネ・アザレアに対して暗殺を企んだ輩がいた。カサネはそれに対して武力でもって対抗した。何故なら、相手がカサネは毒殺を得意としているが、白兵戦に関しては素人だと勘違いしていたからだ。
 それならば、毒殺や、他の策を練るよりも実力で黙らせた方が早いと判断した。
 確かに、白兵戦は得意ではない。だが、得意ではないからと言ってそれが苦手に繋がるわけではない。

「私だって戦えないわけじゃないのですから」

 カサネは目線でアーク・レインドフがいる方へ合図を送る。特に指示しているわけではないが、アークはカサネの意図を明確に受け取った。
 カサネは最初からアークが建物から飛び降り、此方へ向かう事を推測していた。そしてそれは外れることがなかった。アークは思惑通りに動かされた、とは思っていない。動く前からそれが、カサネが思い描いた脚本だとわかっていたから。アークはカサネから渡された拳銃で、カサネを殺そうとした兵士の頭上を打ちぬく。シェーリオルが死体を隠そうと魔導を扱うことはなかった。
 兵士が地面に倒れたのを合図にカサネが命令を出す。

「兵士を取り押さなさい、抵抗した場合は殺しても構いません」

 国軍は一斉に前に出、壇上から飛び降り地面へ軽やかな音とともに着地し、兵士たちへ向かう。
 魔族は予想外の出来事に、そしてホクシアは念願の魔石を手に入れたことで、今後どうするべきか迷っていた。人族は殺すべき対象。しかし、人族が勝手に争っているなら、わざわざ犠牲を出して渦中の飛び込む必要はない。弱った所を殺せばいいのだから。

「なぁ、ホクシア。その魔石は一体なんだ? 見た所……魔徒の魔石みたいだが」
「私の両親の魔石よ」
「成程、それでらしくもなく取り乱したのか」
「そういうこと。でも、何より私が驚いたのは、人族が魔石を手放したこと」

 既にホクシアは冷静さを取り戻している。視線を華麗にレイピアを振るい――鎧の隙間を狙って攻撃を繰り出すシェーリオルに移す。魔導を用いていた頃より、明らかにシェーリオルは弱くなっている。


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