零の旋律 | ナノ

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「君が、君が本当に必要としているなら、俺は返すさ。魔石は魔族だろ」

 後半が何を意味しているか、ホクシアには痛い程理解出来た。この魔導師は、魔石が何によって製造されているか知っている。
 ――ならば、唯の魔石ではないことわかっているはずなのに
 ――何故、貴方は簡単に手放した。
 ホクシアが何か言おうと口にする前に、爆発音が響く。

「――!? 何」

 魔族の攻撃ではない。魔族とは別の場所から、武装した兵士がぞろぞろと現れたのだ。その数は魔族と魔物を上回っている。
 兵士は、シェーリオルとエレテリカの姿を確認すると一直線に襲いかかる。

「ちぃ、全く。タイミングが悪いところで」

 シェーリオルはポケットの中に入れておいた、予備の魔石を右手に握る。小石程度の大きさで、色は薄いピンク。魔石が一瞬輝くと同時に、無数の光の刃が具現に、兵士へ向けて放たれる。
 それと同時に、魔石がシェーリオルの手の中で砕け散った。魔石か砕けた事実に、ホクシアと青年は目を見開く。

「どういうこと!? 人族の力に耐えきれずに魔石が砕けるなんて……」
「おいおい、どういうことだよ」
「あり得ない……」

 魔石の魔力耐久を超えた為、砕け散る現象。人族が扱ってその現象が起こるなど、今まで一度たりとも見たことはなかったし、それはあり得ないことだった。
 魔石は例え人族が扱おうとも、魔力の塊であり、その根源は魔族にある。人族が魔族の魔力を超えることなどあり得ない。しかし、現実にその現象は起きた。

「ちっ」

 魔石が砕け散った事実を誰よりも知っているシェーリオルは舌打ちした後、近くに血を流して倒れている兵士の腰からレイピアを抜き去り構える。魔導師であるシェーリオルだが、レイピアを用いた接近戦が不得意なわけではない。

「エレ、油断するなよ」
「わかっているよ」

 エレテリカは舞うような動作で、襲いかかる兵士と相対する。シェーリオルとエレテリカは背中合わせに、レイピアを構える。

「リーシェ兄さんには役に立たないかもしれないけど、俺の魔石を使って」

 カチューシャの飾りに加工してある薄紫色の魔石を、カチューシャごと渡す。例え、魔石が砕けたとしても、エレテリカより魔導に長けているシェーリオルが扱った方がいいと判断した。

「悪い」

 シェーリオルは左手で魔石を受け取る。有難う、ではなく悪いなのは魔導を使えばシェーリオルの魔石を壊すことになるから。

+++
「よし、行くか」

 屋上で様子を眺めていたアークは、このタイミングだと判断する。

「行くぞ、ヒース」

 返事を待たずにアークは、屋上の端に足を掛け、そのまま飛び降りた。ヒースリアはその後に続かず、端に片足だけ掛け、地面に着地し混乱の渦へ飛び込むアークを見下していた。

「全く、こんな所から誰が飛びおりますか。大体、カサネ・アザレアの依頼なんて無視してしまえばいいものを」

 風で銀髪が舞う。幻想的に、この場の状況を理解していないように美しく。


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