零の旋律 | ナノ

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 開幕の鐘が鳴りやむのと交代するように、フルートの旋律が流れ、次第に他の楽器と重なりあい祭典を祝う音楽を生む。
 レッドカーペットの壇上を、リヴェルア王国、王国と王妃が肩を並べてゆったりとした足取りで歩み、民へ笑顔を見せる。
数歩後ろからは、第二王位継承者シェーリオル、第三王位継承者エレテリカ、王家に連なるものが続く。
 本来、シェーリオルの前を歩くはずの第一王位継承者は婚約のお披露目をこの日に合わせているため、後で登場する段取りになっていた。桜の花弁が舞う。華やかな雰囲気。暗殺や――物騒なこととは無縁と思える世界。その世界に破片が舞う。真っ先に反応したのは間近にいたシェーリオルだ。

「王妃!」

 王妃シルレリアを庇うように咄嗟に前に出て両手を広げる。赤い魔石が一瞬輝く。刃は粉々に砕ける。

「母上、怪我は?」

 両膝をついていた状態から立ち上がり、周囲の警戒を怠らないままシルレリアに問う。

「大丈夫よ。リーシェは?」
「俺は平気。結界を張るから皆中へ」

 シェーリオルが誘導をする。二回目の刃はなかった。何故なら一発目の刃を放った時点でアークが狙撃をしたからだ。倒れた音と方向の共にシェーリオルはアークが狙撃した人物を隠すように不可視の結界術で覆った。咄嗟の判断で同時に二つの事をこなす。

「流石リーシェ王子。判断能力が的確で、それ以上に反応能力が高い」

 シェーリオルには聞こえないが、アークが称賛していた。

「王族護衛部隊は、王と王妃を避難させろ。避難先はコード:DSLY」
「了解!」

 シェーリオルが命じると、王族護衛部隊は王と王妃を取り囲むように。自らが盾になり守る。
 祭典に来ていた人々は咄嗟のことで、どうすればいいか迷い戸惑う。悲鳴を上げる者もいれば、一目散に逃げ出そうとする者もいる。現状を把握しようと観察したり、敵を排除しようとする者も稀にいた。

「リーシェ!」
「母上、早く安全な場所へ避難を」
「なら、貴方たちも……!」
「俺は、心配不要ですよ。俺より術に精通している奴なんて――滅多にいない。エレも大丈夫。それよりこの場で被害を減らすほうが優先です」
「……わかったわ。どうか無事で」
「リーシェ、無理をするなよ」
「勿論です。父上」

 シェーリオルが軽く手を払うと、それだけで――赤き炎が飛び散り消える。魔導による攻撃を結界で弾く。予備動作は殆どなしだ。魔導師として高い実力を誇るシェーリオルだからこそ、可能な技。

「エレもわかっているな!」
「勿論」

 エレテリカはレイピアを素早く抜き、シェーリオルの隣に並ぶ。

「護衛部隊は、市民を避難させろ」
「了解」
「王子たちも早く避難を……」
「俺は問題ない。避難させる方が最優先事項だ」

 護衛部隊はシェーリオルの実力を嫌というほど知っている。時々シェーリオルの相手をしたこともある。
 それでも、避難して欲しかった。
 けれど――何度避難を申し出た所で、シェーリオルが避難をするとは到底思えなかった。
 王族兄弟は皆似ていると、彼らは心の中で思う。ならば、怱々に諦め、自分たちの任務を遂行するべきだと判断する。かといって、全員で動くわけにはいかない。半数はこの場に留まった。

「……全く、心配性なんだから」

 シェーリオルは苦笑いをする。

「リーシェ兄さんもお兄様も、前線に飛び出していくから、皆からしたらハラハラものなんだよ」
「そういうエレだって人の事を言えないだろうが」
「……リーシェ兄さんとは違うよ」
「まぁいいや。折角の祭典の邪魔をしたつけを払って頂くだけだ」

 シェーリオルが、人差し指を立て、円を描くように一回転すると、その中心から魔法陣が具現し、光の鎖が四方に飛散する。何かが千切れる歪な音。肉片が刻まれた音。

「……(襲撃犯は魔族か……?)」

 シェーリオルは顔を顰める。魔導の感触では、殺したのは人ではなかった。


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