零の旋律 | ナノ

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 祭典が開始間近になると、広場には人だかりが出来る。
 アークの視線は常に、広場に向いている。

「全く、俺は護衛……!?」

 文句を呟こうとしたその時、アークは不穏な気配を感じ取る。その方向をヒースリアと向く。

「今の不穏な気配は……」

 アークは気配に敏感だ。一瞬だけ殺気のようなものを逃すことなく感じ取った。

「……人が多すぎて、しかも一瞬だけでは判断するのは難しいですね」
「何か見えないか?」
「何を期待しているのかは知りませんが――特に不審な物は見えませんね」
「そうか」

 アークも視力はいいが、ヒースリアはアークよりも視力が高かった。だからこそ、アークはヒースリアに問うた。

「というか、視力は私の方がいいかもしれませんが、その程度の差異関係ないでしょう?」

 貴方は始末屋アーク・レインドフなのだから、そう遠回しにヒースリアは告げる。

「あぁ。まぁ念には念を。いくらカサネ・アザレアの依頼で裏があるのは見え見えの依頼だとしても、依頼はしっかりとこなすのがレインドフだ」
「主はレインドフが生きがいですものねぇ」
「そういうことだ。とりあえず、カサネの読み通りに何かが起きるのは間違いないな」
「もっとも一般人が王族を妬んだ殺気の類の可能性も無きにしも非ず、ですけどもね」
「その可能性が低いのはわかっているだろうが」

 一般人とそうでないかの気配を見分けられないアークではない。最もアークだから容易に出来るのであった普通は判断出来ないし、そもそも気配を察知出来る事も容易ではない。

「まぁしかし、素直に同意するのは癪だったのと、カサネ・アザレアが失敗したら面白いなぁと思ったのがあったので」
「本当にカサネが嫌いだな、なんでだ?」
「生理的に受け付けません。何故あのような生き物が生きているのでしょうね。害悪ですよ」
「因みにもし俺が二人いるのとカサネ一人だったらどちらを選ぶ?」
「主二人」

 一瞬の迷いもなく即答した。アークが二人としたのは、アーク単品では既にどちらを選ぶか結果が見えていたからだ。

「それは素直に喜ぶべきなのか?」
「えぇ。狂喜乱舞して下さい」
「そこまではしねぇよ」
「器が小さい男は嫌われますよ?」
「安心しろ。お前に好かれたいと思ってはいない」
「私も主に好かれたいとは思っていないので丁度いいですね」
「だな」

 会話をしながらだが、警戒は怠っていない。
 誰かが何かをカサネの読み通り狙っているのは読めた。

「そういや」
「何ですか? 無駄話に付き合って上げていることを感謝すらしてくれない主」
「……。いや、ホクシアとかの魔族は此処を襲うのかなって思って」
「ホクシア……? あぁ、あの魔族の少女。どうでしょうね、まぁ王族を殺すなら絶好の殺害日和ですが、警備が厳重な分リスクは承知しなければいけませんし」

 殺害日和なんて物騒なことをいうな! とラディカルやシェーリオルが入れば突っ込みをしたかもしれないが、傍にいるのが物騒な始末屋だけだったので会話は滞ることなく進んだ。

「あぁ。だが、可能性としてはどうなのだろうと思ってな。最近やたら魔族という言葉を聞くからな」
「そういえばそうですね。そういえば……魔物が人族ではなく魔石を襲うっていう不可解な行動もしているみたいですしね」

 数日前の朝刊に、魔物が人族ではなく魔石を襲っている――勿論、人族を襲わなかったわけではないが、魔石だけを狙ったように攻撃する魔物が目撃されていた。
 目撃した人物は魔石を見につけていない人物だった為、難を逃れることが出来た。そう記事には記載されていた。

「魔族に魔物、本当によく聞く」
「ですね」
「それだけ魔族が活発に活動している証拠だろうな。っと……始まるか」

 祭典の開幕を告げる鐘が当たり一面に鳴り響く。玲瓏なる響き。耳を澄ませば心地よい旋律。
 辺りが歓喜に包まれ熱狂する。年に一度行われる祭典。


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