X 「えぇ、そうですよ」 エレテリカが自ら王子だと名乗ることはしない。それを知っているからこそ、ラディカルが知らなければエレテリカが王子だと露見することもまたない。ましてや、魔導師として名前が広まっているシェーリオルならまだしも、だ。 「エレテリカ・イルト・デルフェニ。リヴェルア王国第三王位継承者です」 「えぇ!? はぁ!? まじっすか!?」 仰天した。目をぱちぱちしながらエレテリカの方を向く。 「御免。黙っていたわけでもないんだけど、自分から言い出すことは出来ないし、別に王子扱いして欲しいわけじゃなかったから。……気分悪くした?」 「いいや、そんなことはないっすけど。あぁ口調今まででも大丈夫か?」 「勿論」 「なら良かった。まさかお兄さんが王子だとは思わなかったよ。普通俺がわかるべきだよなぁ……」 「むしろ知らないでいてくれたから、良かったんだけど」 本心からそうエレテリカは思っている。王子だと知らないからこそ、普通に――ただの友達として接することが出来る。 「まぁ、王子が楽しいようなら私は構わないのですが」 カサネ・アザレアはまだラディカルが安全だと判断したわけではないが、だからと言って排除するという思考はまだ持ち合わせていない。ましてや――エレテリカを悲しませる真似はしたくない。 「では、王子はまだラディカルとお話なさいますか?」 「そうだなぁ……祭典が始まるまでは。カサネは?」 「私は仕事があるので」 「そっか。残念」 「ラディカル。王子だと認識した今、別に態度を改めろとは到底言いません。王子もそれを望んではいませんので、但し――王子を危険なことに合わせることだけは許しませんから、その辺夢夢忘れないように」 「了解っす」 ラディカルは海賊を目指している無法者だ。カサネはラディカルが海賊を目指していると知っていれば、エレテリカを預ける真似はしなかったが、この時点ではそれを知らない。 ラディカルが目指しているからと言って、好んで法を破ろうと思っているわけではない、ましてや王子殺害を企てているわけでもない それに、カサネはエレテリカがそこいらの無法者では相手にならない実力があることを知っている。 「では王子、私は失礼しますね」 「じゃあ後で」 「えぇ」 カサネは元来た道を引き返す。王子が安全である為にはそれが最良の手段だと判断して。 ラディカルとエレテリカはカサネがその場を去った後、会話を再開する。 「まっさか、王子様だとは思わんかったよ。それにしてもカサネは大分王子の身を案じて――いや、策士なら当然か?」 「あはは、本当はカサネとも一緒に話せたら良かったんだけど」 「そういや、エレは少年策士と付き合いは長いのか?」 唯の興味本意。最も長い聞きながら長いとは思っていない。何せカサネ・アザレアの容姿は自分と同年代程度。最もラディカル自身は二十五歳なのだが。 そんな少年が昔から策士としているとは考えにくい。 「うん。何年になるだろう……」 「あ、そっか。幼馴染とか?」 策士以外で知り会っている可能性を今さら思いだし、問いなおす。 「ううん。違うけど」 「へ?」 「数年――六年くらい前かな? その時にカサネが策士として宮殿にやってきたんだよ。カサネって童顔だから、毎回若く見られるんだよね」 無邪気な笑みで、銀色のロケットペンダントを取り出す。 「これ、カサネが俺の側近になってすぐに記念にとった写真。カサネって写真嫌いで普段は取らせてくれないんだけど、どうしてもっていったらとらせてくれたんだ」 ロケットペンダントの中を、ラディカルに見せる。ラディカルはエレテリカの傍に移動して、中を覗きこんだ。 [*前] | [次#] TOP |