零の旋律 | ナノ

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「この執事が……」
「執事ですよ。まぁ私が海賊だったとしても牢屋に捕まるような馬鹿はしませんよ。まぁ牢屋より厄介な人になら捕まったことはあるのですが」
視界には入っていないのに、呟きにのみ反応する――それは唯の暇つぶしのように。
「あぁ、やっぱりお前むかつくっ! ってか性格悪っ。そこいらの悪党の方がまだ可愛いってもんだ」
「そりゃ、そこいらの悪党より悪党ですから」
「あーもうむかつく! 最低だ」

 我慢の限界を突破したラディカルは自身の武器である大ぶりのナイフを取り出し、執事の前に突きつける――が執事は無反応。ラディカルのみならずナイフすら視界に入っていない。

「ちぃっ」

 ラディカルは二歩下がり執事と間合いを開ける。二刀あるナイフのうち片方を回転つけて投げる。

「……」

 ナイフは執事に向かって投げられたが、執事に命中することはなく宙をからぶる。
 執事が交わす為に、動いたからだ。もっとも――戦闘に特化した人でなければ動いたことすらわからないような静か動き。足の音すらしない。
 ナイフはブーメランのように、ラディカルの元へ戻って来る。
 その帰り道の執事に襲いかかるが、それも問題なく交わす。返り血を浴びることもなく獲物を取り逃がしたナイフがラディカルの手に戻る。

「避けんなよ!」

 華麗、といっても過言じゃない避け方をされたラディカルは思わず叫ぶ。執事は鼻で笑った。

「ぐわっ、滅茶苦茶舐められている。でも避けられただけに痛い……」
「子供のお遊びは止めなさい」
「こ、子供って!? お、俺は二十五だ! ……一応」

 最後の方は弱弱しく抗議する。ラディカルの悩みは二十歳にすら見られないような童顔。
 七歳までを除いて、そこから先は年相応にみられることはなくなった。
攻撃された時ですら、ラディカルを見なかった執事が、その時ばかりはラディカルの方を向く。僅かに驚いた表情をしている。その後ラディカルの顔を値踏みするように見る。

「……その顔で私より年上ですか、ありえませんね」
「ありえているんだよ! 俺は二十五だ。あんたと同年代程度だ」
「童顔でしかも稚拙で浅薄で……馬鹿で、雑魚でって救いようがないですね」

 何処か憐れんだ視線をラディカルは向けられる。

「ぐっ」
「なら、子供外見はさっさとお帰りなさい。このような場所に子供が来るべきではありませんよ。それに下手の横好きを披露されても困ります。私の良い視力が低下したらどうするんですか」
「低下しろ!」
「仕事に支障をきたしますから、私が温厚にしているうちに、帰宅することを推奨しますよ」
「辛辣なお前の何処が温厚なんだ! 温厚な性格の人に失礼だろうがっ」
「私がこの口調で会話している間は温厚ですよ」

 さらりと告げる執事にラディカルはいいようのない恐怖に襲われる。

「さ、サディストめっ」
「良く言われます。褒め言葉として受け取っておきますね」

 二歩、ラディカルは執事から離れる。撤退するべきだ、と危険信号が鳴り響いている。これ以上執事と関わってはいけないと本能が告げている。


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