零の旋律 | ナノ

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「いや、ちょっと待って。今にも死にそうなお兄さん。助けてよ」

 このままでは物凄く良くない予感がするラディーは執事に助けを求めるのを即座に断念しアークに助けを求める。

「主、そのような下賤な輩に構う必要はないでしょう、どうせ彼も海賊の一派でしょうし」
「ぐう」

 海賊ではないが、海賊になろうとしていたことは事実な為、何も言い返せない。

「いや、でも一応助けてやるよ。愉快な奴だったし、面白いぞ?」
「私はそのような輩と会話をする趣味はありませんし、第一間抜けにも捕まるような馬鹿はやらかしませんから」

 辛辣な執事にアークは苦笑いをしながらラディカルの牢屋の錠を外す。
 ラディカルはそんな様子を傍目に、声をかけなければ助けてくれなかったことですか、と質問したくなる。問わかなかったのは、牢屋から出して貰えない可能性と非情な返答が来る可能性が高かったから。

「ありがとうございまーす」

 素直にラディーはお礼をいった。


 もう彼を拘束するものは何もない――存分に働け。
 ラディカルは眼前で繰り広げられる殺戮に背筋がぞっと冷える。これがあの今にも死にそうだったお兄さんの戦いなのかと――自然と手が眼帯を抑えている。

「……まるで戦闘狂だ」

 その感想は的外れの感想ではない、仮にラディカル以外の者がこの場にいたとしても同じ感想を口にしただろう。それほどまでにこの船はアークの独壇場となり、殺戮がおこっている。
 アークの仕事は始末屋、依頼を受け依頼主の希望に沿って始末する。その仕事はアークにとって生きがいだった。

「今にも死にそうだったけど嬉々としているお兄さん、危険人物だったのか」
「自覚なかったのですか、洞察力が欠如していますね」

 独り言だったはずなのに、いつの間にか執事が隣に立って返事をしている。気配も何も感じなかった――そしてこの状況を目の当たりにしても眉ひとつ動かさない執事にラディカルは苦手意識しかもてない。

「牢屋で会話しただけじゃわかんないって」
「そうですか、所詮は海賊。その程度の稚拙な思考能力と観察力しかないとは哀れですね。まぁ貴方にそのような能力を求めて等最初からいないのですが」
「あんたのそれは特技か?」
「趣味です」

 最悪だ、とラディカルは思いつつも何も言わない。言ったところで厭味を言い返されるだけ。
 しかし顔に現れていたのだろう、執事は微笑する。

「貴方ごとき海賊に、私の趣味のあれこれを言われる筋合いはないですよ」
「……執事さんよ、牢屋に捕まっていた事は事実だから言い返さないが、俺をあんまり舐めないでくれる?」
「舐めていませんよ。見下しているのです」

 ラディカルの手がそっと武器に触れる。牢屋に入れられた際に没収された武器は牢屋から出た際に取り戻した。
 ラディカル判断では、執事は戦闘能力がある程度はあるよう見えた。けれど所詮は執事。
 ラディカルが武器に手を触れている事にも執事は気にとめない。ラディカルは最初から視界に入っていないと言わんばかりに。別段、プライドが山ほど高いわけではない。それでもこの現状はラディカルの矜持を傷つけられるのに充分だった。


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