零の旋律 | ナノ

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 足音は止まり。姿を現す。

「あぁ、そこにいましたか、自己管理すらまともに出来ない無能は主が、お蔭で此方がどれ程探しまわったと思っているのですか? というわけで給料の値上がりを要求します」

 闇夜に輝くような銀髪、高貴さをイメージさせる服装に身を纏い、赤い瞳が主に見下している。

「おい、それはお前の仕事であって、三日経たないと助けに来ない方が悪い」
「助けない? 人聞きの悪いことを言わないでください。心外です。私は主の好きなようにさせて上げているだけですよ。……わかりました、主は私の登場を歓迎してくれないようなのでこの場を離れましょうか」

 もう一人の男と共に執事は元来た道を戻りその場から立ち去ろうとする。

「いや、ちょっと待て」
「待つだけ時間の無駄です。浪費する時間は無駄でしかありません」
「待て待て待て」
「大して長くない間お疲れ様でした。破格の給料は魅力的でしたが、私は新たに新たらしい仕事を見つけることにしましょう。それでは」
「待て、悪かった。助けて下さいませ。お願い致します」

 二人の会話を呆然と聞いていたラディカルは、この青年がアークの言っていた執事かと納得する。執事とアークの会話はアークが言っていたまさしくその通りだった。
 そして、執事の隣にいる男が誰なのかも気になる。
 そんなラディカルの視線に気がついたのか、執事は社交辞令的な微笑みをする。その微笑みに悪寒を覚える。この執事は善人ではないとラディカルは微笑みで確信した。

「彼は主の牢屋の鍵を持っている方です。銃で脅しました」

 ぴたりと男につけられていて、一目では判別出来ないが、身体の位置を変え、別の角度から見るとそれがわかる。

「では、牢屋を開けて下さい。私は命の保証をしましょう」
「は、はい……」

 男は素直に牢屋まできて、アークのいる牢屋を開け、枷を解錠する。

「おお、久々の自由」
「では……これでぇうぐ」

 男はそのままアークの手によって気絶させられた。

「私は命を保証するとはいいましたが、他の誰かが貴方に対して何もしないという保証は何処にもありませんよ」
「最低な執事だな、本当にお前」
「えぇ、しかし私を執事として雇った貴方には足元にも及びませんよ」
「あのー」

 今にも火花を散らし周囲に甚大な被害を及ぼしそうな二人にラディカルは遠慮がちに声をかける。

「すみませんが俺も助けて頂けないでしょうか」

 自力で脱出するのは骨が折れそうなんでと続けると、執事は冷たく微笑み、瞳はラディカルを見下している。

「私が見ず知らずの赤の他人を何故、助けなければならないのですか? そんな親切丁寧なことをする必要性が感じられません。もしも助けて欲しいと思うのなら一字で表して下さい」
「うっ……」

 ――きつい、
 この執事は相当正確が破綻していると、ラディカルは執事の評価をつける。

「時間切れです、さようなら」

 執事はラディカルを一瞥するだけで、アークを連れて甲板に出ようとする。


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