零の旋律 | ナノ

V


「じゃあ眼帯君。俺は流石に腹も減って眠い。このままじゃ死ぬ気がするんだが――脱出するいい方法を知らないだろうか」
「しっらないねぇ。つか、今にも死にそうだけどそこそこ生き返ったお兄さん。方法を知っているなら俺はいつまでもこんな場所で囚われの王子様やっていないって」
「囚われは、お姫様じゃないのか?」
「俺がお姫様に見えるのか?」
「いいや、見えないな」
「せめて一瞬悩んでから否定しろよ」

 そうはいったラディカルだったが、お姫様に見えると言われたら彼が気にしている事よりも悲しいことなので即答されたことは、それはそれで嬉しかった。もっとも顔にも言葉にも出さない。

「お姫様は俺の部下だな、いやお姫様にしては愛想がないし、慈しみも、想いやりの欠片もないし投げ槍間満載だが」
「ぶかぁ? お兄さん部下いたわけっすか?」
「正確には執事。但し執事の仕事は殆どしない。主である俺の面倒も、あぁそろそろ面倒みないと危ないか、と思わなきゃしてくれない。俺のいうことは二割聞いたらいい方だと思うような自分勝手なサディスト執事」
「首にしろよ」

 アークの言った執事像をラディカルは思い浮かべる。しかしそれはどう考えても最悪で、それを執事と呼べば世の中の真面目な執事に失礼に当たるとさえ思う。

「いやはや、今までの執事はうっかり殺してしまって」
「うっかりで殺される程世の中って危険だったか、俺様は想い直さなければならないな」
「いやいや眼帯君。俺様は止めようよ」
「うっかり人を殺してしまうお兄さんに言われたら、俺終わっちゃうじゃん」

 牢屋に囚われているとは思えないフレンドリーな会話に、見張りの一人でもいたら呆れるか、怒鳴ったことだろう。しかし見張りはいない。脱出出来るはずがないと油断している証拠だ。

「何がどう終わるのだ……それはそうと」

 アークは一旦言葉を区切る。決して温かくない冷たく冷える床の上で思案する。

「?」

 それを疑問に感じたラディーは首をかしげたが、下手に口出しをするようなことはしない。
 人が思案している時に不用意に口を挟むべきではないと考えているからだ。

「俺の執事は助けに来てくれるのだろうか」

 アークが口を開く。予想外の言葉、ラディカルは苦笑する。

「そりゃ執事だし。主の為に助けに来てくれ……ってそれボディーガードの役割じゃん!」
「うちの執事はボディーガードより強いと思われる……」
「なんで最後言葉濁すのですか」
「うちのボディーガードがいないから判断基準がわからない」
「はいぃ?」

 ラディカルにとってアークは謎の固まりだった。執事がいるくらいなのだから、裕福な家の出だろう。執事がいるのならボディーガードの一人や二人いた処で不思議はない。逆にいない方が不自然だ。

「昔はいたんだけど……」
「まさか、執事同様にうっかり殺しちゃったとかいわないよな? 実は大分危険なお兄さん」
「当たり」
「まじかよ」

 一体貴方は何処の誰ですか、と思わず問いただしそうになって――その質問が深く踏み込む内容だった為、止める。
 その時牢屋に複数の足音が聞こえる――人数は二人。

「誰かきたみたいだな、人を沢山殺してしまったらしいお兄さん」

 運良くば、牢屋から出して貰いたかった。そこそこの腕前であれば例え枷で手足の自由が余り取れなくとも、一人や二人を余裕で倒せる自身が充分にあった。
 心持船に慣れてきたのか、最初のように船酔いしてダウンすることもない。


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