海賊牢屋T ――お前、俺の執事やらないか? 出会いは最悪。 ――給料は破格だぞ? 偉そうに微笑む、それだけならまだしも 「それは、誘い文句でもなんでもなくて脅迫じゃねぇのか?」 誘うのならばその手に武器はいらない そして誘う相手を痛めつける必要もない。 ――んな、わけあるかよ。選択肢は二択呈示してやっているんだ、脅迫にならてならん。 理不尽な事をいいながら今、生殺与奪権は握られている。 生かすも殺すも彼の自由。 ならば、と彼は傷だらけの身体で力を振り絞り、彼の手にしていた武器を地面にたたき落とす。 無論そんな行動に意味はない。身体中に武器を仕込み、さらにはその辺の物ですら武器として扱う彼には。 だから武器を叩き落としたのは彼のプライド。 「いいだろう、執事になってやるよ。給料が見合うのならな」 ――契約成立だな その答に彼は満足そうに頷いて妖艶な笑みを彼に見せる +++ 銀色に薔薇のモチーフをつけた懐中時計を片手に時間と日付を確認する。 「あぁ、すっかり忘れていましたよ。今日は三日目でしたっけ」 豪邸、といっても間違えではない建物の一室で、一見すると女性と紛う美しい外見の青年が、高級な材質を作って作り上げた椅子に座っている。 歳は二十代前半、角度によっては薄い金髪にも見えそうな銀色は手入れが行きとどき、櫛を入れても絡まることがない。腰程度まである髪は後で白い布に一本で結ばれていた。 白い布は長く、余った部分はリボン状になっている。 服装も高貴さをイメージさせるものでロングコートの下にフリルがあしらってあるダークレッドのワイシャツ、首元には紅色のブローチ。 紅く透けるような瞳と長い睫毛は見る者を魅了するだろう。 最も社交的な笑みは一切ない。 「さて、そろそろ主の元へ行かなければその辺で野たれ死ぬかもしれませんね」 主の行動時間は三日三晩ですから、と青年は呟く。 その表情は心配や愁いも何もなく、ただ淡々としている。 その冷たさがより一層青年の美しさを上げる効力を放っているのでは――と思える程。 「死なれたら給料が頂けなくなってしまう」 まるで主が生きようが死のうが構わない台詞。そこに嘘偽りはない。青年は給料が頂けるから務める。そういう契約。 「楽な仕事を無くしてしまうのは実に惜しいですからね」 屋敷の外に出ると、一面に広がる手入れの行きとどいた庭。 一瞬すると主の仕事を忘れてしまいそうになる穏やかな世界が広がる。 +++ ゆらり、ゆらりと不定期に動く揺れが慣れていないものには不快感を抱くだろう。 不定期に揺れ動くリズムの正体は波によって生じている。それは此処が地面についていないことを示す。 彼にとっては慣れた動きで不快を感じない。けれど隣に横たわっている人物にとってはそうでもなかったらしく気持ち悪そうにしている。 彼はこの場から抜け出す手段を必死に模索する。 此処は船の牢屋の中。そこに二人の人物が囚われていた。 手と手、足と足は手錠で繋がれ、其々別の檻に入れられている。 一人は船長殺害未遂で、もう一人は不法侵入および殺人未遂で。 現在船は出発した港とは別の港へ戻っている。 本来なら元の港へ移動して二人を引き渡す方が手っ取り早い。しかしこの船はそうしなかった、否出来なかった。何せこの船は普通の一般的な船ではないから。 賊に海賊船と呼ばれる。襲った港へ戻れば捕まる可能性が高くなるだけだ。 [*前] | [次#] TOP |