[ 「あぁ、魔石のことを知っているのはほんの僅かな一部の人族だけですよ。私の主――エレテリカもそのことは知りませんし」 「なら何故お前が知っている、というのはお前に対しては愚問だな」 「えぇ」 策士カサネ・アザレア。逆にいえばこの程度の事を知らない方が可笑しい。といっても過言じゃない。 「私がその程度のこと知らない訳じゃないですか」 傲慢にも取れる言葉――しかしカサネ・アザレアにいたっては事実。 「だな。で続けろ」 「えぇ、少し気になることがあるんですよね」 「何をだ?」 「多いんですよ――魔族による事件が活発化しているといってもいい」 「……確かにな」 情勢を知るためにアークは新聞を読むのを欠かさない。最も仕事中は除く。仕事が終わった後に纏めて読むのだ。だからこそ情報は数日遅れになることもしばしば。 記憶を手繰り寄せるまでもない。ここ数カ月の間で魔族による事件と思しきものが急上昇していた。 「それは何か原因があるのか?」 「原因をあえて探る必要もないでしょう。魔族は人族に対して並々ならぬ恨みを抱いているのですから」 「……そりゃなぁ」 「でも、そんな一気に活発化するってのもおかしな話ではあるんですよね――だから、また貴方達に依頼したいんですよ」 「ほう」 だから態々呼び出したのか、とそこで合点がいく。実力の高い魔族を相手にするなら生半可な相手を使うわけにもいかない。 ましてや―― 「自分で動くのも魔族相手じゃ不利か?」 不敵な笑みにカサネは気分を悪くした様子はない。 「アーク・レインドフの実力ならば魔石商人の家を壊滅状態に追いやった魔族だろうが、なんだろうが問題ないと評価はしているんで。下手に他の人手を雇うよりアーク・レインドフを雇った方が確実ですからね」 「成程な。しかし他に情報はないのか?」 「魔族が確実に現れる、とは限りませんが、私の調べた限りで魔族が人族の街に現れる可能性が高い場所ならあります」 「ほう」 「ある貴族が魔族を捕えている。その貴族の名前はニーディス家。此処最近の事件を考えるとニーディス家が有力候補です」 「何故だ。他にも隠して魔族を捕えている貴族なんてそれこそ五万といても不思議じゃないだろう」 「明明白白ですよ。ニーディス家が魔族を捕えているって噂が流れているんですよ、それも結構広く、噂が流れているなら真偽はともかく魔族としては噂が本当なら仲間を助けに向かうでしょう」 噂が偽物でも人族を滅ぼせばいいだけの話。どちらに転ぼうが魔族が骨折り損のくたびれ儲けになることはない。 だからこそ、カサネは魔族がニーディス家に現れると読んだ。 「お前がその噂を態と流して魔族をおびき出さそうとかは考えていないよな?」 「まさか、そんな企みをするくらいなら私が直接殺すに決まっているじゃないですか。偶々噂が流れていたから都合よく利用してやろうと思っただけですよ」 「どっちにしろあくどいな」 アークは苦笑する。 「で、受けて頂けますよね?」 「依頼であり、報酬があるのならな」 依頼に見合うだけの報酬があるのなら誰の依頼も断らない。 「御快諾有難うございます。助かりますよ」 「また遠出したくないとかその辺の理由か?」 「というかレインドフ家と同じ大陸じゃないですか。ニーディス家は」 「まぁな」 レインドフ家から何十キロ離れた距離にある港町シデアル。そこにニーディス家がある。 「じゃあ、一度帰宅してから向かうか」 「一ついいですか」 「何だ?」 「仕事中毒と言われている貴方は、私からの依頼は受けますが何処か消極的ですよね、それは何故ですか?」 「そんなもの――」 「そんなもの?」 「俺が教えてほしいくらいだ」 理由はわからない。けれど普段の依頼程仕事に夢中になれないのも事実だった。 「そうですか」 カサネ・アザレアには“理由”がわかっているのかもしれない。しかし親切丁寧にアークに教えるはずもない。 アークは立ち上がりその場を後にする。その後ろにヒースリアも続く。一度カサネを一瞥しただけで会話は交わさない。 「……魔族か」 カサネ以外いなくなった部屋で、一人呟いた。 [*前] | [次#] TOP |