零の旋律 | ナノ

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「報酬は相場より弾んでいるつもりです」
「個人的にはその金が何処から流れているのかってことだけど、まぁ一度気にし始めると気になる度合いがありすぎる」
「そりゃあそうでしょう。というか貴方が身につけているもの全て真っ当なお金ではないでしょうし、気にする必要なんて微塵もないですよ」
「おおう、はっきり言うなぁ」
「えぇ、勿論。断定でも断言でも断罪でも好きな方を」
「断罪は違うだろう!」
「強ち間違いじゃないんですか、貴方の場合」

 クスクスと普段のヒースリアなら笑った事だろうが、カサネを苦手としているヒースリアは無表情のままカサネを淡々と睨んでいる。

「……で、何が要件だ」

 不要な話をしているだけ時間が無駄だとアークは判断する。

「えぇまぁ私にとっても要件の無い内容は時間の無駄でしかないですからね」
「お前が原因だろ!」
「そもそも金銭の流れを貴方が気にしたのが原因でしょ、勝手に人のせいにしないでください」
「待て待て待て、それはそうかもしれないが」
「狭量な人は嫌われますよ」
「まて、また話ずれている!」

 アークは何処かヒースリアと会話をしている気分になる。似ているか、と問われれば間違いなく否と即答しただろう。しかし似ている似ていない以前の問題があるような気がしてならなかった――何かを偽っているような。それが偽物であるような。

「まぁこれ以上の与太話は無駄でしょうから本筋へ。魔石商人を殺したのは確かですよね? あぁ、勿論疑っているから確認をとった、というものではありませんよ。貴方が仕事を失敗するとは微塵も思っていませんから」
「あぁ、魔石商人を殺したのは確かだ、死んでいったのをこの目で見た」
「現在進行形ですね。まぁおおよその予想は着きます。魔石商人は魔石を体内へ入れていたのですね?」
「あぁ、だから」

 だから死体は消えていく。魔石を体内へ入れたものの末路。

「その後、は確認していませんよね? 此方も勿論魔石商人の行方ではありませんよ」
「あぁ、俺の依頼は魔石商人を殺す事だけ、それ以上の仕事もそれ以下の仕事もしていない」
「魔石商人の自宅はその後――丁度、貴方が魔石商人を殺したと思しき時間のすぐ後に、壊滅状態に陥りました」
「なんだと?」

 タイミングのよすぎる出来ごと。それ以前に魔石商人の自宅が壊滅状態に陥ったのなら――それが殺戮であるなら、そもそも自分が手を下す必要はなかった。

「私は面倒なことはしない主義なので、詳しくは知りませんが、どうやら魔族の手によって壊滅されられたそうですよ」
「魔族――魔石」
「えぇ、魔石商人は魔族の怒りを買った。いえ、正確にいえば人族そのものが魔族にとっては到底許しがたい存在なのですが」
「だろうな」
「まぁ目撃者の話では魔物を引き連れた魔族が魔石商人の屋敷を破壊の限りを尽くしていたそうです」
「で、それと俺を呼びだしたことに何の意味がある?」

 魔石商人の屋敷が壊滅状態に追いやったのが魔族なら自分とは関係ない。魔石商人を殺した後に誰がどうなろうと、レインドフの仕事外。それをカサネ・アザレアが理解していないはずはないのに――と。
 カサネはクスリと笑う。

「魔石って何で造られているか知っています?」

 突然、何の前触れもなく質問してくる。しかしその質問に意図は存在する。
 アークとて鈍くはない、これまでの話の流れからその意図を否応がなく理解してしまう。

「魔石ってのは、魔族からつくられるのか?」
「より正確にいえば、人が魔法を使う為に実験の限りを尽くした成果ともいうべきでしょうか」
「……なら、魔石を大量に保有していた魔石商人は、人知れず魔族を捕えていた」
「えぇ、だからこその沢山の魔石、魔石商人。魔族が同胞を助ける為に、魔石商人を生かしておくわけがないというわけですよ」

 魔石は魔力を持たない人族が魔法を扱う為の力。
 その程度の認識しか世間は持ち合わせてない。勿論アークも同様だ。ヒースリアも僅かに表情を変えているのをアークはしっかりと目撃する。つまりヒースリアも知らなかった、ということになる。



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