零の旋律 | ナノ

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「魔石を使わずして魔導を使おうとした。切り札、だったんだろうな」

 アークが止めを刺す一瞬、イクリアは魔石を使わずして魔導を放とうとした。その一瞬をアークは見逃さず、しっかりと見ていた。

「成程――魔石商人だと思わせておけば隙が生じますからね」
「そういうことだ」

 しかし、その程度の技、アークには通用しない。
 魔石を使わずして魔導を扱う事は叶わない。だからこそ、魔石は魔導師にとって戦闘の枢となる。魔石が無くなれば魔導を使う事は出来ない。戦闘中魔石を破壊されること恐れた結果――魔導師は研究の末体内へ魔石を装着させることで魔石を破壊される事を無くした。最も全ての魔導師が魔石を体内に入れているわけではない。魔石を体内へ入れた事の代償があるからだ。

「確か、魔石を体内へ入れた者の末路は死体が残らない」
「あぁ」

 イクリアの死体が徐々に薄暗い光を帯び、発光して粒子状へ分離していく。

「魔導を専門としている魔導師ならともかく、魔石商人が魔石を体内に入れるとは到底思っていなかったよ。第一戦い慣れているとは言い難い」
「あっさり主が虐殺しただけで実際は強いのかもしれませんよ。まぁその可能性は小数点以下でしょうが」

 もしもイクリアが熟練者であれば、アークの尾行に気がついた可能性が無きにしも非ず。
 イクリアの死体はあっという間に影も形もなく消え去る。

「魔石商人に何か質問はしたのですか?」
「いいや。特に質問することもなかったし、第一何も聞く必要はないって依頼だったからな」
「本当に依頼通りにしか動きませんね、まぁいいですけれども」
「じゃあ、依頼を達成したし戻るか」
「達成感零って感じですけれどもね」
「まぁな」

 心が晴れない気分のまま依頼は終了した。

「まぁ俺の仕事は終わった。詮索しないのもまた仕事だ」

 依頼が絡まなければ調べた可能性もあったが、依頼内であれば気にかかろうと調べないのが始末屋レインドフ。
 アークとヒースリアが立ち去った後、木々の間に影が差す。上空を魔物が羽ばたいていた。その背に少女を乗せ――

「……何あいつら私の邪魔をするとか。まぁ同胞が同胞を殺す分には支障なんてないけど」

 金色の瞳が忌々しそうに彼らが去った後を睨みつける。

「あいつらの同胞がどうなろうと知ったことはないけど、私の同胞は助けないと」

 奪って言ったもの同情等必要ない――

「私らが何時までも、何時までもお前らの後手に回り続けると思うなよ」

 少女は宣告する。

+++

 四日後、アークとヒースリアは王都のホテルの一室にいた。カサネが取った宿だ。アークとヒースリアの前にはカサネが椅子に座っている。

「依頼達成した後なのに手紙を飛ばして王都へこいってどういうことですか、そもそも主はこう見えても多忙、貴方のような得体の知らない敵と密会する余裕は微塵もないのですよ」

 最初だけ口調が素に戻りかけたヒースリアは途中から丁寧な口調に戻す。

「その分報酬を増やすって手紙に書いたつもりなんですけれど」
「まぁな」

 アークが返答する。この間の会話からヒースリアとカサネの相性が予想より悪いことを感じ取っていたからだ。
 それでもあの時、カサネを送りにヒースリアを出したのはレインドフ家としての仕事だから、と割り切っていた。


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