X 「魔石を非公式に……異様な数を販売しているだけあって後ろめたいのでしょうかね」 イクリアに聞こえたない程度の音量でアークに話しかける。 「だろうな。まぁ此方としては好都合なんだが」 人気がなければそれだけ始末しやすくなる。 「帰宅される前に片付けるか」 アークは動く、一般人には到底追いつけないは早さだ。ヒースリアは走ることもなくのんびりと歩いていた。 「走ったら疲れてしまうじゃないですか」 アークを走って追いかけるつもりは毛頭ない様子。あくまで自分のペースを貫く。 木々を駆け抜けアークは一気にイクリアを追い越し、イクリアの行く先に立ちはだかる。 「おや、どうしましたか?」 予め待ち伏せしていたかのようにイクリアの瞳に映る。流石に営業スマイルはなく、警戒した目つきでアークを見る。 「イクリア・ローベデン、悪いが死んでもらう」 先刻会話した時とはまるで違う雰囲気でアークは告げる。言葉自体が鋭利で、それだけで殺傷出来そうな鋭さを持っている。 「……どういうことか説明願いたいところですね」 実は悪漢の類か――と見定めをしながら魔石が付着した短剣を取り出す。 「説明も何も言葉通りだ。まぁしいて言うなら俺の意思はそこにない」 「どういうことで?」 「俺はアーク・レインドフ。依頼があれば誰だって殺す」 「レインドフ……あの悪名高き始末屋レインドフだったか」 アークに構える様子はない。イクリアとただの魔石商人だと思い油断しているのか、自分に対して絶対的な自信があるのか――恐らくは後者だろう。 「しかし私だってこの圧倒的個数の魔石を販売している以上何度もトラブルには見舞われている。舐められては困る」 アーク・レインドフの手には何も握られていない。だからこそイクリアは自分がただの商人だからこそ舐められていると判断していた。 しかしイクリアは知らない。待ち伏せをしたのではなく、イクリアを尾行していた事に。 それが絶対的な、そして圧倒的な実力差。気がつけない時点で既に勝敗は決している。 魔石を振りかざし、魔導を放とうとした瞬間、魔石が付着していた短剣は手から離れ吹っ飛ぶ。 アークが動いた様子はない。何が起きたのかイクリアには全く理解出来ない。 慌てて別の魔石を取り出そうとするが、それより早く自分の身体が吹き飛ぶ感覚に襲われる。 感覚だけで実際に身体吹っ飛ばない、アークがイクリアの身体を握っているからだ。 圧倒的実力差の前では何の効力も持たないことをイクリアは初めて実感する。 此処までの実力者が自分の元へやってきた事は今までなかった。 始末屋レインドフという名を持っていた処で、そこいらの悪漢と同類だと甚だしい勘違いをしていた。 目立った落ち度がイクリアにあるわけではない。ただ――レインドフに目を、ひいてはカサネ・アザレアに目をつけられてしまっただけ。それが全ての終わりを意味している。 「さてと悪いな。いや悪いとは微塵も思っていないが……」 全てが終わった後、ヒースリアが呑気に到着した。 「お前、俺より足速いだろうが」 「私が主の仕事の為だけに全力疾走するなんてバカらしくて仕方がないじゃないですか」 「まあ、それもそうか」 「そういうことですよ。それにしても案外あっさりしていましたね、魔石を大量に所持しているくらいだから多少は歯ごたえがあるのかとも思っていましたが」 「歯ごたえは全くなかったな。それとこいつ実は魔石商人じゃなくて魔導師だったらしい、しかも魔石を体内へ入れた魔導師」 「はい?」 ヒースリアは足元に転がっている短剣に付着している魔石を目にしつつ疑問を投げかける。 [*前] | [次#] TOP |