零の旋律 | ナノ

V


 二日後レフシアに着いた二人は船から降り、最初に今晩宿泊する宿を探す。
 アークは別にケチではないので、レフシアの宿にある三番目に高級な所で一晩を迎えることになった。
 勿論部屋は別々に取ってある。そうでないとアークの精神力が持たないからだ。
 そもそも部屋が二つ取れなかったから三番目に高級な所になったわけで、取れたら二番目に高級な所で休息するつもりだった。弾力弾むベッドの上でアークは寝転がりながら身体を休める。
 いくら一等席を選んでも船の揺れ心地はアークには余り心地よいものではなかった。
 出来るなら陸地で移動したい。しかし大陸から別大陸へ移動する主な交通手段が船である以上、船を使わないで遠くまで移動するのは現在では無理だった。目を瞑っているうちに自然と睡魔はやってきて眠りに着く。
 普段のアークと比べ仕事に乗り気ではなかったのは、嫌そうな顔をしたヒースリアと同様にカサネ・アザレアの依頼だからかも、知れない。
 そうでなければ仕事一筋のアークがヒースリアと共に宿を探したりはしない。普段ならヒースリアに任せ自分は仕事に向かっているのだから。魔石商人イクリア・ローベデンの始末。それが今回の依頼内容。
 翌朝、アークとヒースリアは朝食を済ませてから、魔石商人を探しに市街地へ出かける。
 カサネ・アザレアの情報では魔石商人は酒場によく顔を出し、魔石を販売しているとのこと。
 定期的に現れるわけではなく、不規則に現れる為、運が良ければすぐに見つかるし、運が悪ければ中々見つからない。しらみつぶしに店店を回るしかない。朝から営業している店から訪れる。

「酒場をただ回るとか、冷やかしもいいですね、流石人でなし主」
「遠回しに酒が飲みたいと判断しても?
「良かったです」
「何が?」
「その程度の事を理解する脳があって」
「……」

 道中にそんな会話をしながら、十件目でそれらしき人物をアークは見つける。
 酒場の地下、テーブルの一角で魔石を広げ販売している人物がいたからだ。歳の頃合い三十代前半。甘栗色の髪と黒い瞳、ローブ状の服に身を包み、手振り口巧みに魔石の魅力や効果を伝えている。

「随分と口がうまいことですね。それに中々に上質な魔石から、安値の魔石まで様々、あそこまでの数をどうやって仕入れているんでしょうね。カサネの話ですと非公式の商人らしいですし」
「そうだな……一つついでだから購入してみるか」
「それがいいですね。どうせこの場では私たちは何も出来ませんし」

 朝とはいえ、ましてや魔石を販売している酒場に人は多い。そこで始末するわけにもいかない。
 閑散とした場所でアークは始末すると決めていた。見つかれば後は人気のない場所にイクリアが向かうまで尾行するだけ。

「すみません、一つ頂けますか?」

 胡散臭くない笑顔でアークが近づき目に着いた紅い魔石を指差す。それは販売している魔石の中で最も高価なものだった。

「おおっ、有難うございます!」

 金銭を片手に用意したアークに魔石商人イクリアは満面の笑顔で金銭を受け取り、魔石を渡す。


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