零の旋律 | ナノ

魔石商人


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 アーク・レインドフはどうすべきか悩んでいた。
 何せ目の前にはこの間一緒に行動した人物――カサネがいるのだから。

「何か御用か?」

 応接室で応対しながらアークはカサネの相貌を隅々まで眺める。
 この間で会った時と同様、無邪気さと残酷さを兼ね合わせ、少年の容姿をしながら少年らしさを感じさせない。黒い瞳が愛らしく獰猛にそして鋭く様々な印象を表情一つで相手に与える。

「特に御用ってわけでもないですけど。やっぱり、貴方たちとは一度知り合ってしまったという縁がある以上放置しておくのもどうかと思って」
「つまり殺すつもりか?」

 アークは今朝の新聞を読むまでもなくオルクスト家がどうなったかを知っている。何せカサネが虐殺をすると知って止めなかったのだから。

「すぐに野蛮な事を考えないでください。まぁ返答次第ってところもありますが……この屋敷は物騒みたいですし」
「そりゃあ、レインドフ家だからな」
「レインドフ家、何代も続く名家。もっとも始末屋が名家であってもどうかと思いますが」
「そりゃそうだ」

 肩を竦め笑う。

「因みに一つ聞いていいか?」
「何でしょう」
「毒か?」

 何を、とは問わない。質問の意図が明快すぎるから。

「えぇ、毒です。といっても市販のものではありませんよ。私が独自に調合した奴ですから、最もその程度のことで身元が判明することはありません」
「そりゃ、そうだとは思っているさ。第一原因すら解明出来ないってオチなんだろ? カサネ・アザレア」
「その程度の事は調べましたか」

 カサネ・アザレア、第三王位継承者エレテリカの側近。別名策士。策士と呼ばれる呼び名は伊達ではなく、カサネが実行すると決めたことは全て可能にしてきた。
 王子に有害な人物を影で抹殺していると言われているが証拠は何一つなく疑惑だけでは何人たりともカサネ・アザレアを捕まえることは不可能。
 これがアークの調べたカサネ・アザレアについての大まかな概要。

「そりゃあまぁな」
「まぁ別に知られて困るようなことはありませんから構いませんが」

 その時、扉を軽くノックする音が響き、次いで扉が開き、ヒースリアが心底嫌そうな顔をしながら紅茶を届けに来た。
 そのまま退室しようとしたがそれをカサネが引きとめる。

「貴方も聞いていかないのですか?」
「……貴方の耳障りな言葉を聞きたくないから、怱々に立ち去ろうとした私の心情を知っての挑戦状ですか?」
「別にそこまで嫌われる筋合いはないと思うんですけどもね、まぁ私は今回依頼を持ってきただけですから、敵視する必要はないかと?」

 首を傾げる姿は外見相応だったが、逆にヒースリアの警戒を強めるだけ。アークは内心特に用がなかったんじゃないのかよと悪態をつく。

「逆効果のようで。まぁいいですけど。とある魔石商人をアーク・レインドフ、貴方に暗殺して頂きたい」
「魔石商人を? 何故だ」
「私が依頼するのですから、ただの魔石商人じゃありませんよ。どうやらその魔石商人は異様な量の魔石を販売しているそうで、流出元が明らかでない不穏な魔石。私としては放置して置きたくないので」
「……なら、質問していいか」
「なんなりと」
「お前なら自ら赴いて始末するんじゃないのか?」

 カサネ・アザレア。自らの不都合な存在を影で暗殺してきたのに、何故此処に来て自ら手を下さず、始末屋など、関わりが知れただけで大問題に発展する相手を雇うか。


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