零の旋律 | ナノ

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「憎たらしい主ですね。私が殺す気がないと思うと交わす素振りすら見せないのですから、腹立たしいったらありませんね」
「お前はもっと親切に俺を起こすという親切心はないのか」
「殺害現状で、死体と一緒に寝るのが嫌なのか何なのか知りませんが、だからといってテーブルの上を選択している時点で、神経が麻痺している主には何も言われたくなりません」
「眠気が凄かったんだ仕方ないだろう」
「仕方ないの一言で何でも片付けようとする横暴さには呆れをとりこうしてほとほと感心しますね」
「お前の毒舌は相変わらずだな、是が一仕事を終えた主に対する気遣いか?」
「主に対する気遣いがそもそも存在しているわけがないでしょう、馬鹿らしい」
「待て!」

 何時ものやりとりを暫く繰り返した後で、アークはテーブルの上から降りる。

「それに、テーブルの上に乗っているからてっきり料理されたいのだと思いましたよ」
「お前がフォークを凶器に使った理由はそれかっ!」
「それ以外に何かありましたっけか」
「あるだろ、それ以外にもきっと」
「皆目見当がつきません、説明して下さい主」
「え、ほら……えーと」
「浅学な主に回答を求めた私が馬鹿でしたね」

 ヒースリアは、此処で何が起きたか等一切興味がある素振りを見せず――実際に興味はなく、屋敷をそのまま後にしようとする。

「それにしても私が最初に見つけて良かったですねぇ。警察が来る前にトンずらしましょう」
「ん、あぁそうだな。流石に異変に気がついた奴らが来るだろうし、そいつらは仕事の範囲外だからな」

 仕事一筋だからといって、仕事の延長戦はやらない。

「主が捕まれば私の給料が危うくなりますからね」
「俺はお前の給料の為だけに毎回迎えに来られるのか」
「あたり前です。それ以外に主を助ける理由など塵一つありません」
「守銭奴かってめぇは」

 アークの言葉にヒースリアは心外です、と言わんばかりに肩をすくめる。

「いいえ違います。主からお金を巻き上げるのが私の趣味だからです」
「お前の趣味は人を見下すことじゃなかったのかよ」
「私の趣味が一つしかないような詰まらない人のわけないじゃないですか」
「どちらにしてもお前の趣味は人害だ」


+++
 岐路についたアークに夕食は用意されていなかった。

「何でお前らの夕食しかないんだ!?」
「私の手を煩わせた報いです。食べたければ自炊して下さい」
「……いや、寝る」

 食事か睡眠か一瞬迷った後、睡眠をアークは選択した。


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