零の旋律 | ナノ

始末屋迷子


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「……あの馬鹿主っ」

 ヒースリアがアークの私室に明朝一番で入り、開口一番の言葉。
 そこはもぬけの殻だった。
 ベッドの下にも壁にも本棚の中にもアークの姿は何処にもない。窓から入ってくる風が心地よいくらいだ。

「仕事大好き人間なのは重々承知なのですが、せめて目的地くらいは教えてほしいものですよね」

 明朝から主が何をしにいったかは明明白白、仕事だ。
 仕事中毒であるアークはわき目もふらず仕事に飛びついて屋敷を一人後にしたのだろう。

「まぁどうせすぐに帰ってくるでしょう」

 特に気にすることもなくヒースリアは本日の昼食をどうしようか考え始める。

+++
 三日後
 主は帰ってこなかった。

「…………」

 アークの自室でため息と苛立ちを見せながらヒースリアは無言になる。
 今回は何処へ向かったか居所を聞いていない。何せ朝起きたらいなかったのだから。

「上等じゃないですか、私に居所を掴ませる所から始めるなんて、全くいい度胸をしていますね」

 額に青筋を浮かべながら、それでも端正な顔は変わらずにヒースリアはアークの机の中にある書類を漁る。
 仕事中毒で仕事以外目に入らない主は当然仕事関連の書類は丁寧に保管してある。
 他者の目につかないように書類が入っている引き出しには鍵がかかっているが、それをヒースリアは適当に解錠する。
 そもそもレインドフ家に侵入する命知らずは滅多にいないのでアークも一応鍵をかけておくか程度の防犯意識しかなかった。

「……その辺で野たれ死んだらどうするつもりなんでしょうかねぇ、今ならアーク・レインドフの首が取り放題ですよ」

 大体のめどをつけてヒースリアは主を迎えに行くべく仕方なく行動する。
 途中でメイドの一人と出会う。

「お出かけですかー? 馬鹿主を探しに」
「えぇ勿論ですよ」
「いってらっしゃーい」

 そんな言葉を交わしてから、ヒースリアは屋敷を後にする。


+++
「……主の図太い感覚のずれた神経を木っ端みじんに踏みつぶしたくなりますね」

 ヒースリアの迅速な行動のかいあって、アークは程なくして見つかった。
 ヒースリアの予想通りアークは、三日三晩働いた後倒れて、死んだように眠っていた。
 その上は食卓テーブルの上であり、白いテーブルクロスは血に汚れ、蝋燭は火がともっていないのに赤く燃え盛るように映り、フォークやスプーンには生生しい跡が付着している。恐らくはアークが武器として使った痕跡。
 床にはシャンデリアが見るも無残な形になっている。恐らくはアークが武器として使った痕跡。
 幾つもの死体が折り重なっていて。その殺人の規模を一目で認識させる。
 血や死臭するなか、平気でアークは寝ている。その神経の図太さに呆れながら

「起きて下さい、主」

 アークの元まで近づき、丁度いい所にあったアーク使用済みフォークを片手に半回転させてから、勢いよく突き刺す。
 アークの首隣に丁寧に突き刺さったフォーク。
 アークは苦笑いしながら目を開ける。


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