零の旋律 | ナノ

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 人里離れた森。ラディカルは魔族の少年の手をしっかりと握り逃げていた。
 もとより街から離れたオルクスト家から森は遠くない距離にあった。
 四方が木々に囲まれ外から見えない場所につくと歩く脚を止め、少年の手を離す。

「さて、少年行くあてはあるのか?」

 一瞬逡巡したが首を縦に振る。

「そっか、此処から遠いい?」

 再び首を縦に振る。

「んーとりあえず少年の服とか新しくしないとな」

 少年の服はボロボロで肌の露出した部分から痛々しい傷が見える。

「それと食べ物の調達っと、少年此処で少し待っていられるか? 俺は少し買い物をしてくる」

 人を安心させる笑顔でラディカルは告げた後少年は首をゆっくりと縦に振る。

「じゃ、ちょっくら行って来るから待ってて」

 ラディカルは駆け足でその場から離れて行く。少年はその場に座りこんだ。ラディカルが仲間を連れてきて自分を裏切らないとも限らない。殺されるかもしれないし、都合のいい実験体にされるかもしれない。恐怖が募るだけなのに――それでもラディカルの元から離れたくなかった。信じてみたかった。最初で最後の――
 ラディカルは約束通り戻ってきた。
 誰も連れてこないで、荷物を両手にぶら下げただけで。少年は安心した。

「どんな服が好みかわからなかったから適当に選んできたんだけどいいかな?」

 ラディカルチョイスの服を少年はとっても気に入った。
 人のぬくもりが溢れる服だと思えた。

「後は食べ物とリュックサックと……時計とか、方位磁石とかその辺諸々」

 少年が着替えている間、ラディカルはリュックに物を移動させる。
 リュックは小さいのが一つと大きいのは一つ。
 少年が着替えて戻ってくると小さいのを渡す。比較的軽いものだけを詰めていた。
 自分は重たいものを持つ。今の少年の体力では一人で行動させるのは危険だと判断した。少しずつ食べる量を増やして元気を取り戻して貰いたかった。

「さて、少年案内してくれる?」

 こくんと少年は頷き、ラディカルの手を一瞬躊躇した後握る。ラディカルは強く握り返した、それだけで少年は安心出来た。
 オルクスト家に囚われたいた時とは違う、そこに恐怖はない。
 少年は一歩一歩歩みだす――あの村がまだ残っている希望を胸に。心の中では自分同様捕まってしまったのではという恐怖を押し殺して。
 何度も休憩を挟んで進む。少年の村へ。だが現実は少年の心を打ち砕くのに充分すぎた。
 村は何も残っていない。人が住んでいた痕跡が僅かに感じられるだけ。

「――っ」

 言葉にならない。悲しみは溢れるのに涙は流れない。人族に対して溢れ肥大する憎悪。
 ――魔族が何をした。

「…………」

 ラディカルは何も言えない。少年の進む先に村はなかった。魔族の住む集落であったのなら、少年同様に人族に捕まったと推測するのが普通。
 となれば少年同様の扱いかそれ以下の扱いをされているだろう、その事実を少年に伝える勇気はない、例え少年がそれを理解していても、だ。
 王国の研究機関へ連れ去られれば最後に待っているのは死。

「少年、これからどうする?」
「…………」

 ラディカルの手を解き一歩一歩前に進み、最後に振り返る。
 悲しみと憎しみ入り混じった表情で、それでも助けてくれた感謝の笑みを浮かべ走り出す。
 何度も足がもつれそうになるが、ラディカルはそれを手助けすることなくただ見守った。

「少年、今度は人族に捕まるんじゃねぇぞ」

 ラディカルは静かに呟く、その心境は如何にか。


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