零の旋律 | ナノ

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「魔族の仲間が逃がしたんじゃないのか?」
「いいえ、恐らく逃がしたのは人族ですよ。何故人族が魔族に加担して、逃がしたのか理由は不明ですが」
「何故人族だと?」
「簡単ですよ、というか少しは頭脳を働かせて下さい、その頭は飾りですか?」
「……」
「魔族が助けに来たのなら何故人族を生かしたまま魔族だけを逃がすのですか」
「あぁ、そういうことか」

 同胞が悲惨な目に会って怒りに満ちるのは当然だろう。
 もとより魔族は人族に対して強い恨みを憎しみを抱いている。
 態々人一人殺すことなく同胞だけを逃がす必要はない。
 地下に行く道中死体は一つもなかった。例え全てを殺す事が出来ない魔族だったとしても戦闘訓練を受けていない人を一人や二人を殺す事くらい用意なはずだ。
 最も――

「まぁ、魔族が人を殺したくないという思考を持つ人が零だとは思っていませんが、それでも可能性は限りなく低いでしょうね。特に現状では」

 地下室に閉じ込められ鎖で束縛され、恐らくは怪我もしている。その状況を目の当たりにしたのなら何かしらのアクションを起こしていても不思議じゃない。
 だからこそカサネはその可能性を排除した。

「となると人族が魔族を解放した、という見方の方がまだ納得いくものがありますよ。それならば人族を殺していない理由にも当たる。魔族を助けたからと言って同胞でもありますからね、それに戦闘訓練を積んでいない一般人です。殺すことを躊躇したって何だ不思議じゃない」

 すらすらと自分の考えをカサネは紡いでいく。それはアークとヒースリアを納得させるのに充分すぎた。

「まぁ、その一般人が魔族の存在を認知していない……という可能性は零ではないでしょうが……まぁ知っていようが知らなかろうが関わってしまったのなら」
「ん? どうした。カサネ」
「いいえ、此方の話です。魔族がこの場所にいないのならもう用はありませんね。お先に帰ったらどうですか?」
「お前はまだ用事が残っているからこの場に留まるって意味か?」
「えぇ、別に此処に残っていても構いませんが、貴方にとってなんの利益もないですよ? 怱々に依頼主に依頼を達成した胸を伝える方が効率的です。貴方は別に誰が死のうが殺されようが構わないのでしょう?」

 後半が何を意味するかアークは理解出来る。
 理解出来てあえてそれを言及しない、する必要がない。アークもそうだから。

「じゃあ、俺たちは帰るか。いくぞヒース」
「えぇ、狙撃されそうになったら主を盾にするのに最適な後方から着かせて頂きます」

 アークは最後にカサネを一瞥し、ヒースリアは見向きもしない。
 此処からカサネがすることに首を突っ込む必要も止める必要もない。


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