零の旋律 | ナノ

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 魔物がアークに襲いかかりアークはそれを巧みに交わし一撃を加える。咆哮が木霊する。鋭利な爪でアークを引き裂こうとするのをアークは広い部屋の中を自由自在に闊歩に交わす。数撃の攻防。しかし長くは続かない。アークが絶対的有利な立場に立ち、魔物を引き裂こうとする――その時今まで攻撃しかしなかった魔物が急にアークの攻撃範囲から外れ、アークの攻撃は空振りする。

「あの主が無様に空振りをするなんて、腕が鈍ったのですか。全く日ごろの丹念を行わないから肝心な時に駄目になるんですよ」

 ヒースリアから駄目だしが入る。

「おい、実は敵。ごちゃごちゃ煩いって」

 手にランプを持ちながらアークはヒースリアの方を向くこともなく抗議する。
 隙あらば毒舌を発揮するヒースリアにアークも余裕があれば返答する。
 魔物はアークの様子を見るためか今まで見たく果敢に挑んでこない。
 どちらかといえば尻込みをしているようにも見える。

「ん?」

 カサネが不思議そうに首を一瞬だけ傾ける。ヒースリアはその動作に気がつきながらも面倒故問わない。

「おいおいどうした、さっさと殺せ」

 苛立ったようにベルガ・オルクストは魔物に命じる。
 始末屋レインドフを始末すれば自分の株はウナギ登りだ。
 それに魔物の力を見せつける絶好の機会になる。恐怖の対象でしかない魔物を使役することが可能なら、それは圧倒的力へ変貌する。

「さっさと殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ」

(ならば貴様が死ね)

 唸りも咆哮も唯の叫び声にしか聞こえない。言葉は存在しないと。
 カサネがうす笑うのをヒースリアは確かにその目で目撃する。

 次の瞬間魔物は命令を遵守した。命令を聞く魔物として主の命令を確かに遂行した。
 主を殺すことで――ベルガ・オルクストを鋭利な爪で真っ二つに斬り裂く。
 魔物の爪は一瞬にして紅く血に染められる。
 アークは何が起きたのか呆然として立ち止まっている。
 魔物はアークに背を向けて屋敷の分厚い壁をぶち破り、空へ飛行する。

「……」

 唖然としながら眺めやすくなった壁際まで近づきアークは絶命しているとしりながらベルガ・オルクストの様子を見る。
 何が起きたのか理解していない呆然とした表情と恐怖で彩られた瞳は大きく見開かれている。
 血だまりが高級な絨毯にしみこむ。
 アークはランプを無事だった机の上に置く。

「俺の出番ねぇ!」

 第一声はそれだった。ヒースリアはため息一つ。

「始末屋としての仕事を持っていかれたとか、俺のプライドに反する。カサネかヒースリアのどっちか空飛べないのか?」
「無理ですよ」
「無理」

 二人から即答される。アークは肩を落としがっかりする。

「あープライドが潰された。俺の始末屋としての実績がぁ」
「実績って実際にはベルガ・オルクストは死んだんだから任務は成功じゃないの?」

 カサネは呆れながらわかりきっている事実を問う。誰が殺そうとベルガ・オルクストが死んだのなら仕事に支障はない。魔物を殺さないといけない手間も省ける。
 後は誰かがベルガ・オルクストの遺体を発見し世間に公表すればそれで終わる。

「それはそうだが。そういう問題じゃない。他の誰かに獲物を持っていかれたってのは俺の仕事上許せない! 俺が」
「なら今すぐこの部屋から飛び降りて魔物を追跡したらどうですか」
「ヒース、俺は流石に飛べないし、飛び降りるのは違うだろ!」

 飛び降りた処でアークの身体能力では死ぬことはないが


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