零の旋律 | ナノ

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「……魔族かやっぱり」

 魔物を使役している噂を耳にした時からラディカルは魔族が関与していると推測していた。魔族を捕えるとしたら地下だろうと判断し、アークたちとは別に地下室をすぐさま探した。
 そしてその推測は的を射ていた。
 目の前にいる少年は間違いなく魔族。
 虚ろな意思が怒りと憎しみ、そして絶望に彩られている。魔族として捕まったからこそ、非道な仕打ちを受け続けてきた。
 ラディカルは一歩一歩少年に近づく。少年は恐怖から逃げようとするが鎖で囚われた身体は動かないし、何より逃げることなど叶わないと少年自信が一番理解していた。
逃げようとして捕まれば仕打ちは酷くなる一方。
 大人しく従順でいることが一番楽な生き方。それがどんなに辛い事か理解しながら、それしか選べない自分に憎悪する。
 ラディカルはナイフを取り出し、鎖に強く打ち付け鎖を破る。

「――!?」

 予想外の出来事に少年は身構える。何が起こるのか理解の範疇を超えていた。
 助けに来てくれた、という選択肢は存在しない。
 何せ、ラディカルの左目はオレンジ色なのだ。同胞ならその色は金色。

「ほら、これでいい」

 鎖を全部外したラディカルは少年の手を掴み、少年を立ち上がらせる。
 久々に立ち上がる脚に力が入らず少年は身体が傾くがラディカルはそれを優しく受け止める。その優しさに少年は戸惑う。ラディカルの目的が理解出来ない。一体自分をどうしようとしているのか――否、利用しようとしているに決まっていると、今までと同じように。自分の力を使おうと。
 従順な魔族に仕上げようとしているだけだと。

「さて、少年名前は?」

 問われる問い、けれど少年は口を開かない。

「んーまぁいいや。魔族の少年。どうする? 俺と一緒に此処から逃げるかい? 此処はもう無理だ。少年はやがて誰かに発見されるかそれともこの誰の助けも来ない地下牢の中で死にゆくか、俺の手をとって脱出するか三択上げる、どれがいい?」

 あくまで選ぶのは少年自身だと言い聞かせるように。
 手を差し伸べたまま。

「発見されたら多分実験体として弄ばれた後、苦しめられて殺されるだけだろうね研究者どもに。俺的にはそれを選んでは欲しくないんだけど、まぁでも選ぶのは君だ」

 少年はおずおずとラディカルの手を掴む。やせ細った手にラディカルは眉をひそめる。力を蓄えさせない為に碌に食事すら与えなかったのだろう。

「なら、そうそうに逃げよう」

 ラディカルは少年の手を掴んだまま少年の歩幅に合わせる。
 少年は久々に歩く感覚に何度も倒れそうになるが、ラディカルがその度に支える。
 少年はラディカルの優しさに戸惑いながらも徐々にラディカルを掴む手が強くなる。ラディカルの手を手放したくなかった。
 魔族として捕まってから何年もの間優しさに触れなかった少年にとってラディカルは唯一の希望。

「……」

 自由になった少年は念じる、自分の為にやりたくない仕事をさせられている友達に向けて。


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