零の旋律 | ナノ

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 悲鳴さえ上げさせず昏倒させるアークの技術によって、アーク達に遭遇していない屋敷の人間は侵入を許してしまっている事に気がつかない。貴族の屋敷内で足音が響いたとしても誰も気にとめない。だからこそ気配を彼らは隠そうとはせず堂々と進む。

「さて、此処か」

 重厚な扉をアークは開ける。誰も手伝わない。

「あんたがオルクスト家当主、ベルガ・オルクスト?」

 扉を開けた先に待っていたのは三十代後半と思しき黒髪の男性、その傍らに跪くように存在する二対の魔物。

「魔物を使役するって噂は本当だったのか」

 ベルガに服従する恰好の魔物たちを一瞥してからアークはベルガの方を向く。

「あぁそうだよ。で君たちは私のこの成功を見届けに来てくれたわけでもあるまい?」
「俺はアーク・レインドフ。お前を始末するように依頼された」
「誰から? といっても私を妬ましく思う人間など数多い、絞りきれるものでもないな。まぁいい、始末屋として名高いレインドフを逆に始末出来れば私の名も挙がるだろう」
「それが、出来れば確かにいい宣伝効果にはなるだろうな」

 不敵な笑みを絶やさない。アークは武器を構えてはない、目についたものを武器にするからだ。もっともアークとて武器を所持していないわけではない、身体中のあちらこちらに武器を仕込んでいる。だからこそ武器が尽きることはない。
 武器が尽きた時アークの敗北だというのなら、アークを敗北させるのは並大抵のことではない。

「ならば始末するだけのことだ」

 魔物に指示を出す、それだけで魔物は牙をむいて襲いかかる。
 カサネとヒースリアは一歩下がり遠目に傍観する。アークの手助けをすることはないし、必要だと思ってすらいない。

「魔物ね、でも魔物の意思でオルクストの命令を遵守しているわけではないみたい」
「そうなのですか?」
「魔物に意思が存在しているからこそ、オルクストの命令を聞いているのでしょ? でもあんな屈辱といった表情をしているし隙があれば殺したいって感じだね」
「なら何故牙をむかないのですか?」

 今だって管理されているわけではない、勿論楔はある。それでも魔物が命令を聞く理由には成らない。引きちぎろうと思えば不可能ではないはずなのに――。

「さぁ」

 カサネは曖昧に笑って答えようとはしない。ヒースリアは苛立ちを覚えない。別に明確な回答を求めているわけではない。ただ主の仕事が終わるまでの暇つぶし程度にしか考えてないから。ヒースリアには関係ない。魔物の意思が自らだろうが、怒りに満ちていようが、何だろうが。意思は主の仕事に関与しない。ただ淡々と依頼された仕事をこなすだけ。一切の情なく。そして情を持ちこまない。
 だからこそ高い成功率を誇り始末屋レインドフ家は有名なのだ。畏怖される程に。


+++

 オルクスト家二階で戦闘が繰り広げられているその時、ラディカルは地下へ侵入していた。気がつかれないように抜き足差し足で移動する。
 地下の一角、古びた扉――しかし厳重に管理された場所を無理矢理破壊して開ける。
 重圧な音と共に扉が開かれると、やせ細った一人の少年が鎖に繋がれながら存命していた。
 生きているのが不思議なほど衰弱し、身体のあちらこちらには痛ましい傷跡。扉の音に、気力を振り絞りラディカルの方へ向く瞳の色は金色だ。
 両手足、首いたる所に鎖で雁字搦めされている。


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