零の旋律 | ナノ

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 都市部から小一時間程度歩いた所にオルクスト家がある。オルクスト家は王国の中でも有名な貴族の一つ。
 大抵の貴族は都市部に集中するが、オルクスト家は都市部から離れた場所に邸宅を構えている。

「噂ではオルクスト家は魔物を飼っているという話でしたね」

 それがオルクスト家が都市部から離れた場所に邸宅を構えている理由。
 ヒースリアはオルクスト邸を前にしてアークに確認する。ヒースリアはアークが誰の依頼を受け、始末屋として行動しているか知らない。依頼内容をアークは他人に話すことは極力しない。
 ヒースリアが信用成らないから、等といった理由ではない。ヒースリアが赤の他人に情報漏洩しないことを知っている。それでも、長年始末屋として仕事をしてきたからこそ、伝えていない。

「あぁ、そうだ。魔物は人族に扱うことは不可能だ」
「魔族が入れば別ですが、オルクスト家は完璧人族の血筋です。魔族の血筋が混じっている噂を聞いたこともありません」
「あぁ、俺もない。だからこその噂。何より魔物を使役しているという目撃情報があるんだ」

 魔族、それは人族には扱えない魔法を扱い魔物を使役することが出来る一族の名称。

「なら、何か裏があるってことですか」

 ヒースリアはやれやれとため息をつく。

「扱えない物を扱おうとするものの末路等目に見えています」

 魔物さえ使役しようとしなければアークに依頼が舞い込んでくる事もなかった。
 自分たちの領域を逸脱しようとした代償。

「まぁ噂が事実であれ虚偽であれ、俺は受けた依頼を遂行するだけだ」
「主に遂行されてしまうオルクスト家――しかし、私は生憎ながら憐れみを覚えることはないですね。もし本当に魔物を使役出来ているのなら、主みたいな不逞の輩ごとき退治出来るでしょうし」

 会話の中に主を弄る事を忘れないヒースリアにある種の感心さえアークは覚えてしまう。

「因みに可能性を他に忘れていますよ」

 カサネが口を挟む。

「何を?」

 他に何の可能性があるのかアークは咄嗟に思いつかなかったが、ヒースリアが成程と相槌を打つ。

「つまり魔族を捕えているという可能性ですね」
「そう、魔族なら魔物を操れる。魔族を捕えて自分の意のままに命じることが出来れば魔物なんて操るのは簡単ですからね」
「魔法を扱え、魔物を使役出来る魔族といえど、絶対的個数は人族に遠く及びませんからね」
「嘗ての大戦により魔族は減少の一歩を辿るばかりだしな」

 魔法を持たざる人族と、魔法を扱う魔族の大規模な争いが嘗て存在した。争いの結末は人族の勝利という形で終息した。魔法の力を用いても、圧倒的に数で勝る人族に魔族は勝利を導く事が出来なかった。
 そして現在魔族はその数を最盛期よりも遥かに下回る少数ながら存在している。

「だからこそ、魔族を捕まえたら隷属と化して自らの栄光への道を切り開くってか」
「金眼の存在がいればそれが決定打でしょうね」

 魔族の特徴、それは人族には決して存在しない金色の瞳。
 魔族は総じて金色の瞳を持っている。だからこそ人族は一目で魔族を判別できるし、魔族も仲間を一目で識別出来る。
 貴族の邸宅、警備は尋常ではないがアークに警備はあっても無いのと等しい。警備員を一撃で昏倒させて三人は敷地内に足を踏み入れる。
 殺しはしていない。今回の依頼内容はオルクスト家の殲滅ではないから。
 ターゲットだけ殺せればそれでいい。アークがいくら戦闘狂だろうと依頼以上の事をこなすことはない。それが戦闘狂であり仕事中毒であるアークのやりかた。
 アークを先頭にヒースリア、カサネの順番で続く。アークは屋敷の人間が現れる度にその辺にあった到底武器にはなりえない物を武器と化し、昏倒させていく。
 二階の階段を上がり、東側の一番奥に真っ先に進む。最初から目的地をアークは知っている。余計な寄り途はしない。


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