零の旋律 | ナノ

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 カサネがどの程度の戦闘能力を保有しているかアークには判断がつかないが、素人ではない程度で同席を許すほどアークの仕事に対する意識は低くない。

「ま、それは保険程度に思ってくれればいいですよ。私だって貴方がヘマをするとは思っていませんし、この程度のことでヘマをするならレインドフの名はとっくに鄙びていますしね」
「なら何故」
「ま、一番のメリットはこの場で私は貴方達の罪を黙認するってことでしょうか、いかがです?」
「それを受けるリミットが俺には分からない」

 不要なら始末すればいいだけのこと――始末屋である以上始末は専門だ。
 カサネ一人始末するのに手間取ることはない。

「受けるか、受けないかは貴方達の自由にはかわりませんよ、それに」

 カサネの視線が冷ややかなものへかわる。意図的に使い分けている表情にアークは嫌な感覚に見舞われる。それは同行させた方がいいと長年の勘が告げている。

「わかったよ、ただしお前に関しては同行するだけだ、ピンチになったところで俺は助けないし見捨てる」
「ええ構いませんよ。むしろ下手な同情を寄せられるだけ迷惑ですから」

 きっぱりと言い放つカサネにアークはヒースリアと同種を見出す。
 ヒースリア人口がこれ以上増えないことを切に願いながら。

「私としては断固反対なのですが。まぁそれでオルクスト家で貴方と敵があい打ちになれば万々歳なので黙認しましょうか」

 ヒースリアがやっと口を開くが、その刺々しさはアークに対してと比べれば生ぬるい。

「それは私もですからお互い様ですね。まぁお互い共食いされないように気をつけましょうか」
「……私は貴方が苦手です」

 断定したヒースリアにアークは苦笑する。嫌いなものは数多く存在すれど苦手は少ないヒースリアが苦手と断言するのだ、余程のものなのだろうと。それは同族嫌悪か、それとも別の何かか

「苦手、ですか新鮮な響きですね。嫌いという表現はよく使われるのですが苦手ときましたか、私は貴方でからかって遊びたくなりましたよ」

 その時点でアークの心のサディストランキング一位が入れ替わった。

「丁寧に辞退しておきましょう。それより主怱々に向かわなければ帰宅する時間が遅くなります。私の貴重な時間を主ごときの為に割くのは釈然としません」

 サディストランキングの前に新たな名称が密かにつけられる。そして新たに別にサディストランキングが作られる。勿論一位は執事だ。
 カサネに対しては毒舌が本領発揮されないヒースリアだったが、主に対してのみはカサネが目前にいても健在だった。
 アークは密かにため息をつきながら、そうでなければヒースリアではないとも感じ――俺は断じてマゾヒストじゃないと断固否定する。


+++
 オルクスト家へ向かう三人を遥か後方から一人の人物が眺める。

「オルクスト家か、あそこは確か――」

 赤毛を揺らしながら必死に一定以上の距離をとる。必要以上に近づくわけにはいかない。視力限界の場所からラディカルは三人をつける。目的地が判明すれば見失っても構わない。
 偶々王都を散策していたラディカルは遠くに見知った影――忘れるはずもない印象的な二人組を見つけ、様子を見ていた。声が聞こえる範囲まで近づけば確実にアークとヒースリアに感知される。
 だからこそ必要以上に近づくことは出来なかった。けれどある方法を用いラディカルは秘密裏に会話を盗み聞きしていた。そこで聞こえてきた会話内容はオルクスト家に始末に向かう事。
 オルクストの名前が出てきた時点で、ラディカルは三人の後をつけようと決意した。
 オルクスト家にはある噂が存在していたから、そして噂が事実ならそのままにしておきたくなかったから――


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