零の旋律 | ナノ

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「はっ、たいした事だな、その為に俺に殺されるかもしれないところを態々一人で赴くなんてな」
「貴方、だけではありませんよ。貴方以上に気になることがありましたから」

 視線をアークからヒースリアに向ける。

「レインドフ以上に厄介な存在がいると知った時は、流石に驚きを隠しきれませんでしたね――無音の」

 ――!?
 カサネは咄嗟に袖口からナイフを取り出し後ろを振り向き応対しようとするが、それより早く手刀がカサネの首元に当てられる。優美に微笑みながら、冷たい視線を浴びせる。

「っ――」
「中々の反応ですね、しかし甘い。その程度、私に殺すつもりがあれば今死んでいましたね」

 淡々と、カサネの首元に手刀を当てながらヒースリアは告げる。
 ナイフを反対側の手で押さえられる。完全に動きを封じられたカサネはそれでも笑みを絶やさない。僅かばかり汗を浮かべながら。

「……流石」
「それ以上の単語を口にするつもりでしたら、殺害されても文句は言えませんよね?」

 手刀は形を変え、カサネの首元に食い込む。力を込めればカサネの首は容易く折れるだろう。

「……わかりましたよ。それについて、今回は言及しないでおきましょう。対処、出来ると思っていたんですが、どうやら甘い目論見だったようで」
「多少鍛えている程度で私の首が取れるとでも思ったら大間違えですよ」
「の、ようで。ですが、私は本来毒殺が得意なので此方の面は少々苦手なんですよ」

 カサネの首元が自由になると同時にヒースリアはアークの隣に位置していた。
 何時の間に移動したのかカサネの眼力では追えない。カサネにはヒースリアが瞬間移動したように見えた。
 異様な速度に、冷や汗が流れるがカサネは動じない。

「アーク・レインドフ、今回のターゲットは誰なのですか? 私としては教えて頂けると嬉しいんですけれど」

 遠回しに教えなければ退かないと告げている。アークは瞬時した後口を開く。依頼主の名前を告げることは仕事に反するため、仮に依頼主を尋ねられたとしてもその場は告げない。告げるのは始末する相手の名前――

「オルクスト家だ、オルクスト家当主ベルガ・オルクスト」
「オルクストですか? 丁度いい」

 薄笑いがこんなに不気味な印象を相手に与えるのか――と錯覚させる程の笑みをカサネは浮かべ、次の瞬間には最初に出会ったように無邪気な表情へ変貌しアークの方へ一歩一歩近づく。

「丁度いい?」

 怪訝な顔でアークはカサネをみると、カサネは距離をつめ間近にいる。

「オルクスト家は私も前々から目をつけていた貴族でしてね、貴方たちが潰してくれるのなら幸いだ、私の仕事が一つ減るわけですからなので私も同行させて下さい」

 遠慮なく求めるカサネに流石のアークも一歩後退する。

「それをはいそうですかと同意すると思っているのか?」
「いいえ、でも最終的に貴方は同意するので問題ないと思いますよ」
「それは力づくでもの言わすということか?」
「野蛮なことばかり考えないでください、私は貴方みたく戦闘狂ではないのですから」

 ヒースリアは会話に口を挟まない。主とカサネの会話と割り切っているのか、カサネに苦手意識を抱いているからか――恐らくは後者だろう。

「でも、私を同行させることは貴方にとって有益になるでしょう、私が同行すれば仮に誰かに咎められることもありませんよ? 貴方のその罪を私の権力を持って潰して上げます」
「そんなヘマを俺がすると思っているのか?」
「いいえ」

 ヘマをしなければカサネが権力を使い、握りつぶす必要もない。


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