零の旋律 | ナノ

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「どうして此処に!?」
「カサネが偶々出て行くのが見えたからさ、此方の方々は?」
「……昨日、ちょっと助けられた方々ですよ。宿にいると聞いたので少し粗品を持ってお礼に」

 カサネは腕にぶら下げていて袋から菓子折りを見せる。万が一の為に予めカサネは菓子折りを用意していた。

「へぇ、珍しい。カサネが助けられるなんて」
「偶にはありますよ、それより早く戻った方がいいのでは?」
「大丈夫だろ」

 突然登場した青年――に呆気にとられながらアークは油断なく様子を見続ける。
 素人が見ればそれが臨戦体形だと気がつく事はないような構え。

「……カサネ、貴方は何者ですか? そちらの方は第三王位継承者エレテリカ様ですよね?」

 青年の姿に見覚えがあったヒースリアはカサネに問う。

「……へぇ知っていたんだ」

 誤魔化す必要はないとカサネは否定しない。知られている者を違うと否定する方が難しいからだ。

「初めまして、俺はエレテリカ」

 王族の第三王位継承者エレテリカは礼儀正しく挨拶をする。
 カサネの表情がアークとヒースリアを射抜くように鋭くなったことにエレテリカは気がつかない。
 アークも流石に王族が目の前にいる前で厄介事は面倒なのかカサネのその表情を見逃す。

「俺はアーク、こっちはヒースリアです。王子」
「アークにヒースリアね。宜しく。カサネを助けてくれたそうで有難う」
「いえ、些細なことですよ」

 営業スマイルを即効で作り上げる。ヒースリアの方が一見得意そうに見えるが、相手を関係なく毒舌で攻撃をする為、あまり向かない。逆にアークが長けていた。

「じゃあ、俺は戻るね。カサネ何時頃戻ってくる?」
「そうですねぇ……少し事実で書類整理とかもしたいので、夕方までには」
「ん、わかった」

 きた時と同じ速度でエレテリカは元来た場所を戻っていく。本来なら王族の人間を一人で出歩かせるわけにはいかないのだろうが、カサネはアークたちに用事があるため、エレテリカの護衛はしない。
 エレテリカの気配が完全に消滅するまで、三人は口を開かない。そしてエレテリカがいなくなったのを感じたアークが開口する。

「で、王子様とコンタクトがある君は何者だい?」

 返答一つによっては殺すこともいとわない表情に、けれどカサネは怯まない。

「私は王子の側近の一人ですよ、だから私が貴方の前に現れた、で通じるでしょうか」
「それは王族に迷惑がかかる可能性がある仕事なら容認出来ないということか?」
「えぇ、でも二つ程訂正したいところがありますが」

 物腰柔らかくカサネは言うが、その瞳は逐一アークとヒースリアを観察している。

「でもな、レインドフの名前を知っているのなら態々説明する必要もないだろうが、俺たち始末屋はそもそも非合法だ、迷惑しかかからないと思うぞ」
「ですから、訂正したところが二つ程といったはずなんですけれどもね」

 始末屋を前にしてもカサネの態度が変わることはない。自分に対する絶対的自信があるのかそれとも何か奇策が存在するのか。

「二つ?」
「えぇ、一つ目、私は別に王族に迷惑がかかろうが知ったことはないんですよ、興味もない。共食いでもなんでもすればいい――けれど、エレテリカに火の粉がかかるのは御免なんですよ。私が仕えているのは王室ではなく、エレテリカ唯一人なのだから。だからこそ今後王子にとって支障が無ければ貴方たちの存在など眼中にないのですよ」

 エレテリカ一人がいればいい、他にはいらない。
 ただ、傍によりそえる事が出来ればいい。



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