W 次の日、適当な所で宿をとり朝食を済ませる。 仕事の依頼をこなす為に下ごしらえといったところか、アークは余すところなく食べる。 アークが食べ終わったところでヒースリアが起床する。寝る時までヒースリアの悪口を聞きたくないというアークの希望で別々の部屋をとっている。その為割高になるのだが、アークはそれで安眠が得られるのなら気にしない。 「主が目の前にいなければ快適な朝を迎えられたのですが、主の顔を見た瞬間に私の今日のやる気を根こそぎ持っていかれました。貴方は何者ですか。そしておはようございます」 「開口一番からお前の悪口を言われると俺としても気分が滅入るって」 「私の存在そのものを否定されるとは思いませんでした、それでは否定された私は暇つぶしに主を服毒死される方法を一人悶々と考えましょう」 「服毒死限定かよ!」 「すみません、水死が希望でしたか、そのご希望に添えるよう努力します」 「どっちも希望していねぇって」 朝から騒々しい、と他に宿泊客がいたら心の中で思われただろうが、口に出して注意する勇気のあるものはいなかっただろう、何せ会話内容が物騒だ。 誰も進んで関わろうとはしない。 最も二人にとって幸いだったのは今現在誰もいない、ということに他ならない。 空いている時間だからこそ、二人が此処にいるといった方が正しいが。 朝食を二人とも取り終えたら、チェックアウトして外に出る。 まだ朝日は昇っていない。当初から早い昼食を希望した為他の宿泊客は睡眠中だったのだ。 もっとも通常よりもかなり早い昼食を希望した時、従業員は営業スマイルを崩しはしなかったが難色を示した。しかしアークが料金を倍で払うと交渉を持ちだすとあっさりと承諾された。 「さて、是から仕事に向かいますかって少年?」 二人が出てくるのを見計らっていたかのように少年が立っていた。 朝日が昇るタイミングなら、その背を朝日が受け眩しく輝いていたことだろう。しかし現在はまだ朝日が昇る前の薄暗い空。 「なんで此処にいるんだ?」 「アーク・レインドフ。この街で何を企んでいる?」 「……ご存じだってわけか」 アークの姿勢が少しばかり変る。この少年が何かしでかしてきても対処できるように。 少年は上着のポケットに手を入れたまま動こうとはしない。 アークとの距離は五メートルといったところか。 「始末屋レインドフの当主様が姿を現した時はびっくりしましたよ。何を企んでいるのか私は凄く興味があるので教えて頂けますか?」 言葉だけを聞けば昨日となんらかわらない。しかし昨日のような純粋さは見てとれない。 「依頼内容を話すことは叶わない、どうしても依頼内容を知りたいのなら俺から力づくで聞きだすしかないぞ?」 「……それは勘弁ですよ。私は別に貴方たちが何を仕出かそうが興味はないし干渉するつもりもない。ただ――私の仕事の邪魔になるなら別って話ですよ」 「仕事の邪魔って――?」 「それは」 「カサネー」 「――!?」 カサネは驚いて後ろを振り向き自分の名前を呼んだ相手を見る。誰かが走っている足音には気がついていた。けれどそれが自分たちに用がある相手とは限らない。人通りが少ない明朝とはいっても起床している人は起床している。だからこそ気にとめてはいなかった。声の主がカサネの名を呼ぶとは想定せずに。 敵対している相手なら、致命的な隙。しかしカサネの目的が不明瞭な今、アークは攻撃を仕掛けることはしなかった。 [*前] | [次#] TOP |