U その時、少年の目が一瞬驚愕で見開かれているのに気がついたが、ヒースリアが屋根から突如飛び降りてきて、自分に罵詈雑言を浴びせているからだとアークは解釈する。 「所で此方の少年は? まさか主は少年好きの趣味が?」 軽蔑した眼差しを送るヒースリアを一発殴ろうか本気でアークは考える。 「そこいらのチンピラに絡まれていた少年」 「――!? なんですと!?」 愕然するヒースリア。 「なんでそんなに驚いているんだよ!」 それが演技ではなく、本心からの驚きだとアークは理解し、理由を詰め寄らずにはいられない。 「主が純粋に人助けをするなんて、そんな善人染みた事をするなんて塵程も思っていなかったものですから、驚きを隠しきることが出来ませんでした。不覚です」 「俺に少年好き趣味疑惑を向けた時よりあからさまにお前驚いているよな!?」 「勿論ですよ。その方がまだ信憑性が高いのですから」 「どんなだ! お前は俺を一体普段どんな目で見ているんだ!」 「戦闘狂、仕事馬鹿、ワーカーホリック」 「いや、それは当たりだけど……」 「あのお」 二人の永遠に続きそうな会話に終止符を打ったのは、結果的にはアークに助けられた少年だ。 「お礼に何か御馳走したいんですけど」 「ん? いや別に全く気にしなくていいよ」 「まぁ……最初貴方は普通に私を見捨てる気満々だったのは知っていますが、それでも結果は変わりませんから気持ち、ということでどうでしょうか」 「主、此処は人としてその善意を受け取っておくべきですよ」 それは断るとどうなる――と密かに思いながらも少年がまた会話に置いてきぼりになるのでアークは喉元まで来た言葉を飲み込む。 「じゃあ何か喫茶店で軽く紅茶でもくれたらいいよ」 「わかりました、それでは案内しますね」 当然ヒースリアも同行する。 「そういや、少年君。君の名前は?」 「……カサネっていいます。お兄さん方は?」 「俺はアーク、こっちはヒースリア」 「アークさんに、ヒースリアさんですね」 少年――カサネは身軽な動作で楽しそうに街中を歩いていく。 カサネの目的地である喫茶店に辿り着くと最初に二人が中に入るように促す。 喫茶店の中は少し年季が入った風が感じられ、素朴さがにじみ出ていて、派手な建物が比較的多い街中では地味――とも感じられてしまうがその素朴さがカサネは好きだった。 「此処の紅茶は美味しいんですよ」 アールグレイを三つ注文すると程なくしてやってくる。 アークが一口口につけるとカップをテーブルの上に置きほんの少し無言ののち口を開く。 「本当だな、美味しい」 アークは普段から高級な紅茶を飲むことが多かったが、このアールグレイは又一味違った美味しさがあった。 「今度取り寄せてみようかなぁ」 王都から離れた処に拠点を持つアークは王都に滅多なことがないと来ない。それこそ依頼が無ければ来ない場所だ。 「確かに美味しいですね」 捻くれた発言もなくヒースリアも珍しく素直に褒める。 「お前でも素直に褒めることがあるんだな」 「主は私を何だと思っているのですか、私にだって感動したことがあれば素直に褒めますよ」 「それは遠回しに俺に対して酷い事を連呼しているは、俺に感動することはないということだな」 「主に感動するなんて気色悪いじゃないですか、鳥肌が収まりません」 何時ものいい争いが始まろうとした時、タイミングを見計らったようにカサネが止める。 「お二人は何時もそんな感じなのですか?」 興味本意もあったのだろう。 十代中ごろにしか見えない少年に興味深そうに問われればアークは口を濁す。 流石に大人げないとでも思ったのだろうか。 [*前] | [次#] TOP |