零の旋律 | ナノ

策士共闘T


 王都リヴェルア、そこにアークはいた。
 船から降り、久々にやってきた王都を観光客のように物珍しく周囲を一通り眺める。

「(此処もあんまり変わらないか)」

 整備の行きとどいた大通りから少し外れた場所を歩いていると、前方に数人の人だかりがいた。
 正確には一人の少年と、その少年と相対するように――恐喝しているように、数人の恰幅のいい青年たちがいる。自分の足音に少年が一瞬此方を見た。
 ――今のは!?
 少年が一瞬だけ目を見開く。この人通りの少ない場所に身形のいい青年が歩いてきたからだろうか。
 関わり合いになる必要も、少年を助けてあげる親切心も持ち歩いていないアークはその場を立ち去ろうとする。
 そもそもアークがこのような道を歩いているのは命令を聞かないサディスト執事を探しているからだ。船から降りるまでは一緒だったが、その後はぐれてしまった――というより執事が自ら逸れたといった方が正解かもしれない。当然、自分を心配して探してくれる性質ではない事を嫌というほど理解している。
 一通り観光した後、そろそろ合流しようアーク自ら探しに出向いていた。
 少年の前を通り過ぎようとした時だ、少年がアークの腕に絡まってくる。

「すみません、ちょっと助けてくれませんか?」

 無垢な笑顔と期待の眼差しを少年はアークに向ける。

「……俺は赤の他人を助けてあげる程に親切なやつじゃない、他を当たれ」
「他に当たる人がいないから、ですよ」

 言うまでもないが、他に人通りはない。

「……だからといってなぁ」
「おいおい、お兄さんよ? なんだお前?」

 案の定、少年にからんできていた青年たちがアークにも目をつける。この場には不自然な身形のいい服を着ていればあたり前と言えばあたり前だが。

「通りすがりの人A。すぐに立ち去るんで気にしないでくださいな」
「AだろうがBだろうが、どうでもいいが、お兄さんも身形いいじゃねぇかよ、金目のものおいていけ!」

 明らかな恐喝を聞いてなおアークは気にも留めない。アークの実力をもってすればこの程度のチンピラを相手にすることなど造作もない。だからこそ、アークは暇つぶしに青年たちを叩きつぶした。
 街中での殺しは流石にまずいと思い全員を昏倒させただけ。もとより仕事以外でアークが人を殺すことは滅多にない。

「へぇ……、あ、有難うございます」

 少年は礼儀正しく頭を下げる。

「チンピラ風情にまでに憂さ晴らしをするとは何処まで大人げないのでしょうか、我が主は」

 その時、何時も聞きなれた罵声と共に執事が屋根の上から飛び降り、アークの後ろに着地する。

「(こいつは――!?)」
「まず屋根から飛び降りてきた事を突っ込むべきか、それとも何時もと変りないお前の罵詈雑言にたいして講義すべきか真剣に悩むよ」
「その程度の日常的な事で真剣に悩まなければいけないほど主の脳みそは薄っぺらかったのですか、私は本日も新たに主の浅薄さを理解しました」
「たくっヒースお前なぁ」

 執事――ヒースリアに対してため息をつきながら頭をかく。


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