W ――私が忠誠を誓う唯一人よ +++ 「何故……目の前から消えるかな」 泉は呟く。誰に向かって呟いたわけではない、自分自身に語りかけただけ。 相棒は、それこそ影のように常に寄り添ってきた存在は、目の前にいない。 あの日突然消えた。 今何処にいる。 「……あったら一発ぶん殴るけどな」 追憶に浸っている場合ではない。 泉は直に現実に戻る。この場にいない相棒ではなく、大切な唯一の家族を見る。 怪我をしている。 怪我をさせたのは――泉の武器を握る手が強くなる。 「殺す」 「……い、泉が寝起きできれているのに、若干冷静なのが逆にこえぇ、な、何があったんだよ」 朔夜は由蘭から目を離し、普段なら敵味方関係なく攻撃する泉が、それをしないで狙いを定めている目に、逆に普段以上の恐怖を感じていた。 泉の桁外れといっても過言ではない戦闘能力を朔夜は知っている。 泉の実力の底を知らないから恐怖を覚える。だから、この街で泉の存在を知っている罪人は誰も泉を殺そうとはしないし、郁に手をかけようともしない。 この街での暗黙のルールの一つ。 泉は急ぐこともなく、ゆっくりすることもない歩調で斎と郁、そして白圭のもとへ歩み寄っていった。 泉の登場に一時休戦をしていたが、泉がこちらに近づいてくることを理解した白圭は大剣を先ほどより強く握りしめる。 斎や郁と対戦している時よりも肌でプレッシャーを感じ取る。 登場の仕方といい、建物を破壊していたインパクトといい、斎や郁よりも罪人らしさを白圭は感じた。 しかし、白圭に真っ先に攻撃をするようなことを泉はしなかった。 一番初めに向かったのは郁の元。郁の怪我をしている部分を見る。 「……郁……手」 郁の手を悲痛な顔で見つめる。郁はばつが悪そうな表情をする。 その表情に驚いたのは斎だった。しかし、斎は何も言わない。 「……傷が開いた、だけだ」 「無理はするな」 泉は郁の頭を、ポンと撫でる。 照れくさそうに郁は微笑む。 「……(相変わらず泉に映るのは郁だけか)」 その様子を斎は無言で眺める。 そして、泉の邪魔にならないように数歩下がる。泉が戦うのであれば、自分まで出る必要はなかった。自分がやるべきことをするだけ。 まずは由蘭を止めなければ爆発は止まらない。 朔夜と戦闘をしているからといって、爆発が切れるわけではない。 まだ、由蘭は術を使える。 [*前] | [次#] TOP |