V 「何者ですの? 突然の堂々と登場して、正義のヒーロー気取りですの?」 「いや、すでに建物を破壊しまくって、お前らの目的に貢献しちゃっている時点で正義のヒーローにはなれないだろ」 由蘭の独り言に思わず反応し突っ込みをした朔夜は、街を壊すんじゃねぇよと悪態をつく。今までの爆弾による破壊よりお前の方がずっと威力が高いんだがと。 「……それもそうですわね」 由蘭は術のターゲットを変更して詠唱する。 ――綻びを破壊せよ、そうして新たな血脈を創け 「また別の術かよ。あいつ一体どれぐらい術のバリエーションがあるんだよ……」 同一の術を連続して扱うことは殆どなく、状況に合わせて、臨機応変に術を変更する由蘭に朔夜は関心すら覚える。 攻撃の対象は朔夜から突如現れた泉に移る。紅い一閃が容赦なく泉を貫こうと空間を迸る。 しかし泉はそれに何の反応も示さない。攻撃に怯えることもなく、かといって余裕の表情を見せることもしない。 泉は黒い鞭を振るう。 綺麗な曲線を描き振るわれるその動きは優美で、鞭が伸びたように映る。 否、実際に鞭は伸びていた。 しかし重量の変化はないのか、泉の表情は変わらない。 鞭は長く長く伸びていく。黒い鞭の周りには暗黒のオーラのようなものが渦巻く。 長く伸びた鞭は、由蘭の術を一蹴する。いとも簡単に。 唯、鞭を振っただけで由蘭が唱えた術を消し去った。 「な、なんですの!?」 流石にいともたやすく消されるとは想像していなかった由蘭は驚きの声を上げる。 特別な術を使ったようには見えなかった。唯、物質であり鞭が伸びただけ。それだけなのに――どうして術を消し去る。 それも何もなかったかのように、眼の前にある埃を払うかのように簡単に。 「相変わらずだなぁ……」 その様子に、普段から行動してくれ、なお且つ街を滅ぼすのではなく、滅ぼさないのを手伝ってくれればと思わずにはいられない朔夜であった。 それが叶わないのならせめて、泉の行動時間内である夜に白き断罪が行動してくれればいいのにと。 唯、政府の国で暗殺を目的として闇に紛れるために夜に行動する組織とは違い、白き衣は闇に溶けることはない。そして罪人の牢獄では闇は訪れないから、人知れずというのは不可能だった。 「輝け轟け雷鳴よ!」 由蘭は慌てて次の術を詠唱する。そこには既に朔夜の存在は映ってなかった。 朔夜が使用する雷の術と似たような術が発動する。 泉の上空には雷雲が突如として現れ、泉に向かって雷が落ちる。雷鳴が轟く。 しかし、泉はこれも埃を払うように簡単に鞭をひと振りしただけで、雷雲を消し去ってしまう。 [*前] | [次#] TOP |