零の旋律 | ナノ

第弐話:漆黒


 廻る廻る過去の記憶
 あの日紡がれた言葉


 ――ねぇ、どうして大切だと気付いているのに、それを否定するの?

 ――気づいているのに気付かないふりをしたから、離れていったんだよ

 ――やめなよ。いくらなんでも成功しない

 そんなことは百も承知だった。
 けれど、これは失敗しようが成功しようが、関係なかった。
 これは愚かでどうしようもなかった自分へのケジメ。
 そう偽りの。自らの痛みを隠すために偽りの理由を作り上げたに過ぎない。

 だからいつまでも傷は塞がりを見せずに唯、目に見えないところで広がり続け、自分ではどうしようもない程広がり、けれど自分でしかどうすることもできないことを。

 全て承知していても、見て見ぬふりを今も続けている
 今でも
 だから、今でもあの時の言葉が脳内で鮮明に思い出される。


「そうだね、九十九成功しても一失敗すれば、全て失敗になる」

 想思は同意する。
 例えどんなに優れていた学者がいようと武人がいようと、九十九成功しても一失敗すれば全てが崩れ去る程に、人は脆いと。

「例え俺がどんなに盗みを成功していたとしても、掴まればそこでおしまいさ」
「だから、君は今ここ(罪人の牢獄)にいるわけだよね」
「あぁ」

 想思は地面から素早く起き上がる。いつまでも地面にへばりついているわけにはいかない。
 今ここで倒すべき対象が目の前に近づいてきている以上は。

「けれど、君はそれまでは成功していたんだ。最初から全てが失敗していた僕とは違って」
「?」
「僕は唯の失敗作の人形。いくら頑張ろうと成功作にはなれない、唯のガラクタだ」

 想思は再び髪の毛を武器にする。
 例えどんなに体力が消耗していたとしても、負けるわけにはいかない。
 勝つことがここに(白き断罪)いれる理由。
 そう思っているから。

「……」

 篝火も拳を固める。
 負けたらそこにあるのは死だけだ。


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