零の旋律 | ナノ

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「ちぃ……」

 斬撃を繰り出す郁だったが刀としては細見の部類に入る郁の刀と、大剣と呼んでも問題ない程の大きさを誇る白圭の武器では、一撃の威力が違った。
 さらに郁はその攻撃を受けないように、受け止めないように交わしながらの戦闘をしているために、中々白圭に一撃を当てることが出来なかった。

「腕に負担がかかることはしないのか」

 白圭のその言葉に郁は一瞬、動きが止まる。
 その隙を見逃さず攻撃をしようとした白圭だったが、目前に迫って来る札に目が先に行き咄嗟に右へ避ける。
 札は白圭の前を通り過ぎ、瓦礫と化した建物に当たり爆発する。
 由蘭が作り出した爆弾よりも威力の高い爆発音と爆煙が映し出される。

「……斎」

 白圭の視界に現れるのは、郁の後ろから走って現れたのは黄緑色の髪と深緑の双眸を持ち、白い装束に身を包んだ青年――斎。

「斎っお前爆弾処理はどうした!?」

 斎は郁の横に並ぶ。その手には札が数枚既に握られていた。
 爆弾を処理するための結界札ではなく、相手を攻撃するための攻撃札だ。


「……」

 白圭の表情は驚きに満ちていた。郁はそれを確認したが、白圭が驚いているのは突然自分を斎が助けに来たからだと解釈した。前の敵に集中していて郁は気付かなかった。
 斎の表情が普段と違うことに。
 決意した瞳と、悲愴な瞳それらが複雑に絡み合い形成された、なんともいいがたい表情をしていたということに。

「……罪人は何故この地で生き延びられるのだろうな」
「答えは簡単でしょ? 政府がこの街を生かすことを暗黙の了解としているから」
「……いつからこの世界から正義という言葉は消えたのだろうな」
「この牢獄が作られたからじゃない?」

 淡々と、斎と白圭は会話していく。
 それは無意識のうちに、感情を無理やり抑え込もうとしている、そんな声色に郁には感じられた。
 二人が一体どんな感情を抑えているのかは、判断出来なかったが。

「どうなんだろうな、私にはそれと、それ以外の目的もある気がしてならないよ」
「……」
「まぁ今は関係ないことだがな」
「そうだね」


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