零の旋律 | ナノ

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 この命つき果てる前に出会いたい人がいる
 この命つき果てる前に守りたい人がいる
 この身体が動いている間に


「……君はピエロだった?」

 郁が白圭に切りかかった頃、宙を飛んでいた想思は地面へと叩き落とされていた。

「いや、唯の泥棒さ」

 時は遡ること数分前
 篝火は決して足場の良くない建物を、まるでそこが平らな大地のように、バランスを崩すことなく、右へ左へと休むことのない想思の攻撃を交わしていった。
 想思が、ならばと上下左右に篝火には当たらないように攻撃を仕掛けた。
 それは動かなければで、動けば攻撃にあたることを意味しているし、仮に見切ったとしても逃げ場などない。
 そういった攻撃だった。
 案の定篝火は避けなかった。避けたらあたることを見切っていた。
 此処までは想思の思惑通りだった。
 しかし、その次の行動は想思の思惑通りではなかった。

 想思は気付くべきだった。篝火が足場の悪い屋上で、足場の良し悪しなど関係のないように動いていたことに。
 刃となり尖っていない部分を篝火が両手で掴むと、腕力を利用して遠心力をかけ、髪の上に篝火は足を乗せた。
 そのまま篝火は手を放し、まるで普通の地面で徒競走でもしているような足取りで、想思のもとまでやってきた。
 バランスを崩して落下すれば、空中で身動きが取れなくなり攻撃を受け死ぬというのに、それに恐怖することなく。安定した足取りで昇って来た。まるで階段を上るように簡単に。


「身軽さなら自身あるんでね」

 想思が何かしらの対処をする前に、篝火は想思に右手で力一杯顔面を殴った。
 勢いに任せて殴った殴りの力は地面へと向いていて、想思はバランスを崩し、地面へと落下していった。
 それに伴い篝火も落下していったが、器用にまだ硬質な髪の毛から髪の毛へ移動を繰り返し安全に地面に着地した。


「泥棒ね、盗みに失敗して政府に捕まったんだ、おっちょこちょいだね」
「そうだな、いくら盗みを成功させ続けていたとしても、一度失敗すればそれまでだな」

 篝火は笑う。自嘲気味に。


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