零の旋律 | ナノ

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「創設者だと……?」

 郁は顔を顰めて白圭に問う。創設者とは一体何なのか。何者なのか。

「ここの牢獄にはいるんだ。ここを罪人の牢獄とした創設者がな。創設者がいる限り、ここは政府を滅ぼしても滅びはしないだろう?」
「そんな確証は何処にもないだろう。ここは腐っているんだ、街が存在しなくては何も育たない。外は毒に汚染されている」

 気付いたら、死んでいたなんてことがあり得るほど、この場所は死が身近なのだ。
 恐ろしい程に

「……あくまで、君らが生きているのは政府があるからだというのだな」
「あぁ」
「ならば、政府が生きているのも君らが生きているからだ、二つは影と光のように支え合い、どちらを欠いても生存の道はなくなる」
「……」
「君はご存じか? 政府が罪人に何をさせているかを」

 白圭の問に郁は答えなかった。
 それは知らなかったからだ。情報屋、そう名乗っていた所で、実際に情報を集め管理しているのは兄である泉であり、郁は情報をどのようにして集めているのか手法すら知らない。
 何故なら、何度郁が情報の収集の仕方を泉に問うても、泉は肝心なことを何一つ教えないから。
 知らなくていいことを、郁が知る必要はないと。

「知らないのなら教えてあげよう。この街の奥にある最果ての街、そこの罪人は政府の汚れ役をやらされているのさ」
「!?」
「わかりやすく例えるなら、政府にとっての不利益になるものの暗殺。罪を犯しているから、これ以上罪を犯したところで変わらない。そして政府にとっては知らぬ存ぜんを通せるというわけだ」
「罪人だから構わないと、政府は自ら汚すことを好まないか、腐っているな」
「あぁ、腐っているよ、ここは愚かしすぎる程に腐っているだから、浄化するのだ」

 白圭は柄に手をかけ、ゆっくりとした動作で大剣を抜く。
 銀色に輝く刃は鋭く、手入れが行き届いていた。
 一方の郁は想思と相対していた時とは違い、右手と左手両方に一刀ずつ刀を構え、二刀流となっていた。

「ほう、二刀使いか、先ほどは一刀しか使っていないから予備の刀かと思ったが、それより……」
「何だ?」
「先ほどの右に刀を持っても大丈夫なのか?」
「!?」

 白圭の外見や武器の形状を見る限り、そして先程郁の手首を掴んでいた力を考えると、腕力の強いパワータイプの相手。郁は舌打ちしたくなる心情に駆られる。接近戦を得意としている郁だが、遠距離戦より苦手なのは力のある相手との戦い。それでも自分より弱ければ、素早さを利用してねじ伏せる。しかしどう考えても郁の攻撃を易々と防いだことと言い、この男が弱いことはない。
 それだけではなく、左腰の怪我、右手首から流れる血。長期戦になれば成程、郁は不利になる。


「私は誰が相手だろうが、罪人相手に情けをかけるつもりはない」

 白圭は何処までも真っ直ぐな瞳で、郁を見据える。


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