零の旋律 | ナノ

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「……(こいつ)」
「お前っ……白き断罪?」

 男の姿をようやく見ることが出来た郁はその男が白い服に身を纏っていることを改めて知る。歳は四十に届くか否かという所だろう。鍛えられた体格はよく、腰には郁の持つ刀よりも二回り程大きい剣が鞘に収められている。

「私は白圭(はくけい)。今回の首謀者といっても過言ではない」

 郁は白圭と対峙しながら、想思から来る攻撃も忘れない。
 先刻は突然の声に驚き攻撃を受けたが、そう何度も攻撃を受けるつもりはなかった。
 それは篝火も同様で、篝火は白圭の存在に気をつけながら、想思への攻撃を試みているのか、いつの間にか篝火の姿はまだ崩壊していない建物の屋上に立っていた。
 屋上と言ってもしっかりとした足場があるわけではないが、篝火は持ち前の政府に捕まる前にやっていた泥棒で鍛えたスキルで難なくその場に立つ。
 篝火はまさかこんな所で過去のスキルが役に立つとは、何が役に立つか、わからないものだなと心の中で呟く。


「首謀者だと?」
「私は今回の一緒に行動を共にしている白き断罪の隊長だからな」
「何故こんな真似を? 白き断罪は政府直轄組織なのだろ、政府が生かしているこの牢獄を滅ぼす様なことを何故する、それは政府の意思と反しているだろ」

 郁の問を吐き捨てるような表情で、睨みつける憎悪の瞳を持って白圭は郁を見る。

「政府は今や腐っている。だから浄化することが必要なのだ」
「ならば、政府を最初に正したらどうだ。所詮、ここは罪人の牢獄、政府によって生かされている地。政府からの支援が途絶えれば遅かれ早かれこの地は滅びる。態々、お前らが手を下しにくる必要などないだろうに」
「そんなこと簡単なことだ、政府に正す機会を与えるためだ」

 白圭はそう断言したが、郁にはそれが偽りの言葉に聞こえた。
 本来の目的をすり替えるために、本来の目的を隠すための上辺だけの言葉に聞こえてならなかった。

「政府が腐敗しているのは今に始まったことではないだろう」
「……それに、政府を滅ぼしたとしてもここは生き残るだろう」
「何故」
「ここには創設者がいるからだ」
「!?」

 郁は一瞬刀を落としそうになる。想思への注意も一瞬忘れた。想思からの攻撃が来る、と焦ったが想思は篝火との戦闘に集中して此方まで手が回らないようだった。想思のことは篝火に任せ、自分は白圭に専念しようと考える。


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