Y 「僕らは所詮人形。人にはなれないのなら、僕らは僕らの意義を持って君たちを殺す」 複数系の意味を、彼らはまだ理解出来なかった。 何故なら、篝火も郁も人形の意味を知らなかったから。 「政府が造った産物、それが人形だ」 突如、篝火と郁の後方――十m程から声が響く。爆発音に掻き消されない。けれど決して大きな声ではない。言葉の一つ一つが、明瞭な音となり此方に伝わって来る。 一瞬二人はそちらを振り返ってしまった。振り返った瞬間しまったと後悔するがすでに遅く、その一瞬の隙を想思は見逃さない。刃が襲いかかる。 一瞬の隙が命取りになることを、充分に承知していた。それでも突然の声に、言葉に隙を見せてしまった。篝火と郁がそれを避けるよりも早く刃は二人を貫く。 「ぐっ」 「くっ……」 それでも、二人は避けられないのなら、致命傷にならない場所にと判断する。 篝火の右肩を髪の毛が貫く。痛みを覚えながらも躊躇することなく髪の毛を手で握り引き抜いた。 黒い手袋は紅く染まる。刺さったまま髪の毛が動くよりも自らの手で抜くことを選んだ。 「っつ……」 痛みが、篝火の神経を迸る。 血しぶきが篝火の周囲を飛び散る。 頬や首筋に飛んで付着した血の跡が残る。 郁は左腰部分を刃が通り抜けた。左腰から勢いよく音を立てるように血が地面に滴り落ちる。どちらも致命傷ではなかった。けれど――血は流れ赤く周囲を染め上げる。痛みに篝火も郁も顔を顰める。 「ほぉ、想思の攻撃で死にはしなかったか、大した罪人だな」 突如声をかけてきた人物は、いつの間にか郁に近づいてきていた。 「くっ……!?」 郁はとっさに刀を持っている右手で横に裂くように、振り向く流れに沿って斬りかかる。 しかし、その攻撃は最初から見切っていた、といわかんばかりに郁の右手首を掴んだ。 「なっ……」 「……攻撃が単調だ。驚いた時の攻撃など回避するのもたやすい」 「離せっ」 郁は掴まれている右腕を自由にしようと引くが、それに伴って男の握る力も強くなる。 郁の力ではそれを振りほどくことが出来なかった 「つっ……」 「ん!?」 郁は一瞬痛みで顔を顰める。 男は手の平から伝わる何かを見る。それは、郁の右手首から滴る血だった。 「血……」 「離せ!」 郁は左手で、腰に差してあるもう一本の刀を引き抜いた。 そのまま居合抜きのような要領で、一気に男に切りかかる。 「っち……」 男は郁の右腕を離してその攻撃を後方に避ける。 距離を取った後、自分の手を見ると掌は真っ赤な血に染まっていた。 [*前] | [次#] TOP |