零の旋律 | ナノ

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「君たちが、宣戦布告された罪人かな? 僕は想思(そうし)」

 想思は簡単には殺されない相手に、烙が宣戦布告をしてきたと報告してきた相手かと推測した。

「私は、郁(かおる)だ。白き断罪よ」
「名前を名乗ったのに、呼んではくれないんだね」

 一瞬だけ、本当に一瞬だけ、想思は寂しそうな表情をした。それが敵だったからか、それ以外の理由があったからか判断はつかない。その表情もすぐに元に戻る。
 先ほどの寂しそうな顔が嘘のように消えた。 

「お前らを名前で呼ぶほど親交を深めたつもりはない」
「そうだね、君たちはここで死ぬのだから変わらないか」

 想思はその場でしゃがみ、そのバネを使って跳躍をした。

「何を……!?」

 そしてそのまま武器と化していた髪の毛は二房に固まり、天を羽ばたく翼のよな形状に変化した。
 想思は宙を浮き、髪の翼を羽ばたかせながら飛びまわる。
 上空へ飛んだ想思は、一部の髪の毛を翼の固まりから離脱させ、鋭い針を無数に作りだす。それは伸縮自在で篝火と郁に向けて勢いよく地面へ攻撃を始めた。


「僕がいくら失敗作の人形だとしても、君たちに負けるほど落ちぶれてはいない」

 ――探し人を見つけ出すまで、再会するまで、僕は死ぬわけにはいかない

「厄介な相手だな……俺らじゃなくて斎たち向けの相手だったか」

 右へ左へ、時には地面を蹴り空中で空からの攻撃を交わしながら篝火は呟く。
 想思へ攻撃するためには、何か遠距離から扱える術か、武器。そして直接その場所まで行くかしかない。
 今の篝火や郁にはどちらの手段も使うあてがない。

「むしろ、兄貴が起きれば色々好都合な気がしてきた」
「あーでも、誰が泉を止めるんだよ」
「さぁ」
「無責任だなぁ」

 二人は一瞬だけ顔を見合せて笑う。
 闘いのほんの一息。
 次から顔は真剣そのものへ変貌する。
 油断は死を招く、彼らはそれを百も承知だ。

「さぁ、さっさと終わらせないと街が壊れる」

 街がなければ、罪人は生きていけない。
 街という空間に生かされているから。
 街の外に出れば、毒の砂が周囲を舞う。

 死期を自らはやめようと罪人は思わない

 だから彼らは戦う

 生き残れるか死に絶えるかその二択

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