零の旋律 | ナノ

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「打撃もだめか、なら」

 郁は刀を反回転させて持ち直す。それに特に意味はなかったが、郁は気持ちを入れ替える意を込め半回転させた。横に鋭く斬り裂く。それは空気が斬られているのが感じるように、鋭く速く繊細に風に乗せて斬る。

「!?」

 今まで微動だにしなかった想思の髪の毛を切り裂く。腰のから下の髪の毛は横に真っすぐに斬れ、地面にゆっくりと落ちる。

「油断大敵だ!」

 郁は次に斬った流れのほうに戻すように刀を引きながら、想思に斬りかかる。
 無防備になった腰の部分に鋭い痛みがはしる。一直線上に腰から血が流れる。
 だが、今一歩のところで想思が逃げた為、致命傷には至らなかった。
 腰を押さえながら、想思は片膝をつく。

「ちっ……」

 思わず舌打ちをする。肩膝をついたが、安々休憩をとるわけにはいかない。
 先ほどまで襲いかかってきた罪人達は、篝火と郁に遠慮をしてか、それとも邪魔にならないようにか遠くに離れ現状を見ている。しかしその手に握られる武器は離れていない。
 想思はその様子に篝火と郁が他の罪人より強いことを悟る。

 郁は想思に休息の時間を与えないように、すぐに二撃目を加えようと跳躍する。

「そう、何度も喰らわないよ」

 想思は残った髪の毛を細かく鋭い刃物上の武器に素早く変化させる。
 郁に対し右から左から突きを繰り出す。しかし郁はそれらを悉く避ける。ある時は身体を上下左右にずらし、絶妙のタイミングで交わす。ある時は刃でその先端を受け止める。
 そうしながら、郁は決定打を与えようと刀を繰り出す。そこに篝火も加わる。

「面倒だ」

 想思の髪の毛は先刻よりさらに細かく鋭い武器へと変質していく。
 先ほどより倍以上に増えた武器が篝火と郁を襲う。軽いフットワークで交わしながら攻撃を繰り出すが、それは倍以上に増えた武器によって遮られてしまう。
 細かく素早く動く動きが繰り返される。
 それはほんの一瞬の出来事なのに、それでもそれは長いひと時のように感じられる。


「それはこちらの台詞だ、白き断罪」

 郁は無数の突きに避けきれないものは全て刀で受け止めていたが、それを繰り返すうちに刀を握っている両手が衝撃が重なったことで痺れてきた。このまま攻防戦が続けば何れは握力がなくなり刀を握れなくなる。握っていたとしても、軽い衝撃で刃を落としてしまうだろう。
 それは朔夜は斎のように遠距離攻撃が得意ではない以上圧倒的に不利になる。それだけは避けなければなかった。
 篝火は素手だ。黒い手袋をはめているからといっても、突きでくる攻撃を受け止めるわけにはいかない。それ故に、避けるしか方法がない。郁以上に篝火は疲れを実感していた。ただ、それでも篝火と郁では基礎体力が違う。篝火の方が体力面は上回っている。
 鍛えようと思って鍛えたわけではない。篝火は元泥棒をやっていた。その過程で軍人から逃げるのもしばしば。だからこそ気がついたら自然と体力がついていた。

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