零の旋律 | ナノ

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「処で、この騒ぎに出てこない輩がいるんだが」

 この街の罪人は決して弱くはない。
 この街にいる以上、強さを持っている、力であれ技術であれ何であれ。
 その中でも、篝火たちの戦闘能力は高い。
 けれど篝火たちだけでは勿論ない。

「あー」

 郁からの問いに、篝火は何と返答しようかしばし迷った後、この間言われた言葉を正確に思いだす。

「確かこの間、「あはっボク達は是から水波っちと街を旅する旅行に行ってきます」って言っていたな」
「……」
「あいつら面倒事が嫌いだからなぁ」

 この街にいる一部の実力者たちを思い出す。
 戦闘面は折り紙つきだが、面倒なことは嫌いで大抵揉め事が起きても素知らぬふり。 例え榴華が直接お願いに尋ねてもそれを放置。故に榴華は大抵篝火たちの所へ足を運ぶ。二度手間にならずに済むからだ。

「まさかとは思うけれど、予めこの事態を見越して、その上で逃げたんじゃない……よな?」
「かもしれないな」
「いつの間に予知能力を身につけたんだよ」
「全くだ」

 溜息混じりにいいながら、篝火は手に黒い手袋をはめる。もたもたしていれば、街が滅びる。第一の街が、罪人の牢獄の一角が。そんなことをさせるつもりは毛頭ない。このまま野放しにするつもりもない。


「篝火!」

 郁は咄嗟に篝火の名を叫ぶ。篝火の目前に迫って来るのは、無数の直径にして二十p程の黒い塊。

「うおっ」

 是は触れればおそらく爆発する危険物。
 ならば、どう対処するべきかと篝火は一瞬思考したが、そんな思考は無駄だった。
 斎が篝火の前に立ち袖から数枚の札を取り出し、それらを黒い塊に投げつける。
 黒い塊に当たった瞬間、札はそれら包み込む大きさの結界を瞬時に作り出し、その結界の中で爆発させた。

「全く、厄介な塊だよね。札をあまり無駄遣いはしたくはないんだけど、朔行くよ」
「おう」
「篝火と郁は、あれの対処を。俺と朔で爆弾退治に向かう」
「わかった」

 斎がすぐに支持を出せたのは仲間がいるから、仲間の優しさに触れているからかもしれない。
 斎の言葉に篝火と郁は白き断罪想思(そうし)のもとへ走りだした。まだ、郁は刀を抜かない、そして一抹の不安を抱える。
 少しでもその不安を減らしたためか、目的地に着くまでの短い間、会話として持ち出す。

「爆弾が私の家に来たりはしない……よな?」
「……泉が起床したら逃げよう」
「だな」

 泉――郁の実の兄で夜行性。朝から昼間は活動停止時間。睡眠中。
 起こすな危険。


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