W ――この街は思い出の街、大切な思い出が詰まった街 それを破壊しようとする者がいるなら それを奪い取ろうとする者がいるのなら それらを全て消し去ろう ――ここは大切な街、唯の街だとしてもかけがえのない大切な街 守るものと、奪うもの 生きる者と、死ぬ物 生かすと、殺さる +++ 榴華と柚霧が去った後、篝火と朔夜、斎は玄関で靴を履いて外に出る。 時刻は十一時を過ぎた頃。国に入れば、太陽の光が眩しく辺りを照らしているだろう。 しかし、曇天の空は光を見せない。 それと同様に闇も見せない。 此処は狂った大地。 曇天の空を見るたびに思い出されてしまう。 いくら、街があっても、いくら人がいても、店があっても、何があっても 決してここにはないものがある。 雨はない、けれど水はあり 風はない、けれど人口的な風はあり 太陽はない、けれど明りはあり 月はない、けれど偽りの空はあり 雷はない、けれど燃え盛る炎はあり あるものは全て自然ではなく人口的なもの。 国の管理する牢獄であっても、ここは違う。 純粋な、腐敗していない自然物はこの地には見渡す限りには存在しなかった。 「郁のやつ遅いね」 曇天であるが故に眩しくない、そして果てがないように見えて天井がある空を見上げる。 「すまん、遅れた」 声をかけながら、駆け足で郁がやってくる。本日も真っ黒な衣装に身を包んでいる。 「遅い」 「別に待ち合わせしていたわけではないだろうが、遅れたことは詫びよう」 「なら、いい」 朔夜はあっさりとそう言って、腕に珍しくはめている時計を見る。 銀色に薔薇のデザインの時計だ。時刻は十一時十分を指している。 ――さぁ、もう直ぐ始めよう、これで一つの終わりを 「じゃあ、白き断罪を探すか」 それを言ったのは篝火か朔夜か斎か郁か それとも全員か [*前] | [次#] TOP |